研究課題/領域番号 |
14J03967
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
武石 直樹 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | がん腫瘍細胞 / 血行性転移 / 接着 / 微小循環 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では、がんの血行性転移に関わる微小循環内の腫瘍循環細胞(CTC)の接着現象を計算モデル化し、大規模パラメトリック計算を行うことでCTCの接着がどのような力学的条件下で成立するのかを解明する。本研究では最先端の実験力学との融合が不可欠であることから、分子・細胞スケールに関してはマサチューセッツ工科大学(米)のRoger D. Kamm教授の研究グループと国際共同研究とした。平成26年4月から平成27年3月までのおよそ12ヶ月間、Kamm教授の指導の下、本研究の基盤となる接着モデルの構築に従事した。実験力学に基づく分子・細胞レベルの計算モデルを構築し、ボトムアップ的に組織レベルの計算モデルの構築に成功した。モデル構築後はこれを用いて受容体の種類や密度といった分子レベルのパラメータに注目したパラメトリック計算を実施した.これにより、ナノスケールの接着タンパクによる接着力とマクロスケールの流体によるせん断力のバランスを理解するための興味深い結果を得ることが出来た。現在、より大規模なパラメトリック計算を実施しており、細胞接着を力学の観点から理解するための新たな知見が得られると期待している。開発した計算力学モデルはがん細胞の接着現象だけでなく、炎症反応時の白血球の内皮細胞への接着や血小板の血栓形成をシミュレーションすることにも応用できると期待している。一方、本研究に先行して取り組んでいた白血球の流動に関する研究は1本の雑誌論文としてまとめることが出来た(Takeishi et al., 2014, Physiological Rep)。先行研究では白血球に限らず、様々な細胞に関する流動を解析しており、それらの研究成果も近日中に雑誌論文として投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年4月よりマサチューセッツ工科大学(米)のRoger D Kamm教授の研究室にておよそ12ヶ月間、研究の基盤となるがん細胞の接着モデルの構築とそれを用いた大規模パラメトリック計算・解析に従事した。滞在期間の初期に渡米の最大の目的である計算力学モデル開発に成功した。その後、開発したモデルを用いてナノスケールの接着タンパクによる接着力とマクロスケールの流体によるせん断力のバランスを定量化し、がん細胞の接着を力学的観点から理解するための重要なデータを得ることに成功した。さらに、申請テーマの研究の実施に並列して、先行研究である白血球の流動に関する論文を投稿し受理された(Taakeishi et al., 2014, Physiological Rep)。先行研究では白血球に限らず、様々な細胞に関する流動を解析しており、それらの研究成果も近日中に雑誌論文として投稿を予定している。渡米の目標を完遂させた点と、投稿論文の受理という点で当初の研究計画以上の進展を上げたと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では単一のがん細胞の接着に注目していたが、今後は実際の微小循環系を想定し、赤血球が懸濁した流路内での接着シミュレーションを予定している。この研究では、これまでの単一細胞の接着シミュレーションで得られた知見を基に、流路形状もパラメータに加えた大規模パラメトリック計算を実施する。本研究室では既に微小流路を用いた実験により、乳がん細胞の分岐部と合流部における接着の違いについて実験結果を有しているため、実験を模擬した計算を行うことでがん細胞が特異的に接着する血管領域は存在するか否かを明らかにする。また、あるとすればそれはどのようなメカニズムによるものかを明らかにする。これまでのがん細胞の接着に関する研究は主にナノスケールの接着タンパクの働きについて注目してきたが、複雑流路内での赤血球とがん細胞の多体計算を実施することにより、がん細胞の接着に関するマクロスケールな細胞流動の影響を定量化できるのではないかと期待している。
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