2016年度の前半は、2015年度に明らかになったパースにおける「アブダクション」とグッドマン、認知意味論における「投射」との関係についての展開を行なった。また、「共感」研究を「こころ」や「自己」へとつなげるために重要となる意味を蓄積する「努力」の研究として、「移動」に関する生態記号論的研究を行なった。特に、科学研究費補助金基盤研究(A)「知のエコロジカル・ターン:人間的環境回復のための生態学的現象学」の「移動の未来」のメンバーと定期的に打ち合わせを行うことで、幼児から成人、姿勢の制御から旅にいたる幅広い範囲の「移動」研究が推進され、その成果として「移動」が「自己」の形成に重要な影響を与えていることを明らかにした。
2016年度の後半は、シンシナティ大学のアンソニー・チェメロ教授のもとで生態学的アプローチからの「共感」研究について助言をいただきつつ研究を進めた。チェメロ教授は哲学・心理学両方の専門家であると同時に、現在「共感」に関するセンソリ・モータ・アプローチを進めており、本研究を進めるうえで非常に参考になった。
海外長期研究を2016年度末ぎりぎりまで行なっていたためシンシナティ大学で得られた研究成果を2016年度中にまとめることはできなかったが、生態学的アプローチにもとづく「共感」研究、さらにはその延長線上にあると考えられる「自己」研究を行なう上で、土台となる基礎的研究を一定程度達成することができた。今後、国内外のさまざまな分野の研究者たちと議論を行うことで本研究はさらに実りあるものになると期待される。
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