研究課題/領域番号 |
14J04060
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田巻 初 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 固体NMR / タンパク質 / 常磁性緩和促進 |
研究実績の概要 |
・常磁性緩和促進を用いた固体NMR測定感度の改善 固体NMR法は膜タンパク質等の不溶性分子の動態を解析できる強力な手法であるが、原理的に感度が低く、動態を解析する際の大きな障害となっている。NMRにおいて測定の律速となっているのは励起状態からの緩和過程(縦緩和過程)である。よって、これを短縮することができれば、積算効率が向上し、感度が改善される。常磁性体存在下において、緩和時間が短縮される常磁性緩和促進という現象が知られている。そこで、これを用いた感度改善を試みた。常磁性を示すCu2+イオンをEDTAにキレートさせたCuEDTAを調製し、DMPC, DMPA混合脂質リポソームに再構成した膜タンパク質halorhodopsinと混合した。CuEDTAを5 mM添加することで、縦緩和時間が56 %に短縮された。つまり、感度を30%向上させることに成功した。
・常磁性体を用いた立体構造情報の収集 タンパク質の立体構造情報は、その動態を解析する上で重要な情報である。特に遠位の情報は、二次構造間やドメイン間、モノマー間等の相互作用を反映するため特に重要である。固体NMRによって遠位の情報を収集することは可能であるが、感度等が問題となり難しい場合が多い。溶液NMRにおいて常磁性体と核の相互作用を用いることで、遠位の情報を簡便に収集する手法は確立されている。しかし、固体NMRでは応用例が少なく、最適な実験方法や情報の取り扱い方について、検討すべき事項が多く残されている。そこで常磁性を示すMn2+を用いたを立体構造情報収集について研究をおこなった。EDTAタグを用いてモデルタンパク質GB1のシングルシステイン変異体にMn2+を結合させ、固体NMRスペクトルを測定した。信号強度とMn2+-核間距離に相関が見られた。さらにこの情報を用いた立体構造計算手法についても確立することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目標は、固体NMR法の高感度化と、それを基盤とする膜タンパク質動態解析手法の確立である。現在主流の構造・動態解析手法である結晶構造解析や溶液NMR法と比べ、固体NMR法の感度は低く、実用的な解析のためには高感度化が必須である。当初の計画通り、常磁性体による緩和促進効果を用いることで、膜タンパク質試料の測定感度を改善することに成功した。 加えて、タンパク質の動態と密接な関係がある立体構造に関して、常磁性体を用いた情報収集と、それを基にした立体構造計算手法を確立した。立体構造情報についても、固体NMRが低感度であることや、その信号が縮退しやすいことにより、その収集は難しいとされている。確立した手法により、この問題は軽減されると考えられる。こちらは当初の予定には含まれていないが、常磁性体の応用として非常に重要であると考え研究を実施し、良い成果が得らえた。 以上を踏まえて、当初の計画以上に進展している、と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
感度改善について目処が立ったため、これを活かした動態解析手法の確立を目指す。具体的には、短時間での測定が必要な重水素交換実験を、NMRの高速データサンプリング法を適用して行う。この方策は一般に感度の低下を招くが、これまでの研究によって実現された感度改善により、その欠点を補うことが可能であると考えられる。光駆動型のアニオンポンプ型膜タンパク質であるhalorhodopsinをモデルに重水素交換実験をおこない、光反応に伴う構造変化を追跡する。これにより、手法の確立のみならず、未だに詳細が不明瞭なhalorhodopsinのアニオン輸送メカニズムの解明も目指す。
|