研究課題/領域番号 |
14J04076
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
上田 祐生 佐賀大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 貴金属 / クロロアニオン / 溶媒抽出 / 分光学的解析 / 選択的分離 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、貴金属アニオン錯体の外圏におけるサイズ認識に関する分子設計概念および抽出機構の分光学的解析手法を確立することである。 本年度はまず、白金(Ⅳ)の選択的抽出目的とした、ピバルアミド型三脚状分子およびそれに対応した単脚状分子誘導体の合成をおこなった。目的物の確認はTLC、核磁気共鳴および赤外吸収スペクトルによりおこなった。合成した抽出試薬を用い、平衡到達時間の決定、抽出率の塩酸濃度依存性、分配比の水素イオン濃度依存性、および分配比の塩化物イオン濃度依存性について検討し、また化学量論の決定をおこなった。その結果、白金(Ⅳ)の抽出に関してこれまで合成してきた抽出試薬には観られなかった、対応する単脚状分子と比較し著しい抽出能力の向上が観察された。次に白金(Ⅳ)抽出機構およびその他の貴金属クロロアニオンに選択性を有する抽出試薬の開発のために、白金(Ⅳ)の抽出機構を解明することが重要であると考え、数種のアミド型およびウレア型抽出試薬による白金(Ⅳ)の抽出について検討した。まず、合成した抽出試薬による平衡到達時間の決定、抽出率の塩酸濃度依存性、分配比の水素イオン濃度依存性、および分配比の塩化物イオン濃度依存性について検討し、化学量論の決定もおこなった。その後、抽出実験の結果を基に決定された条件において抽出試薬の赤外吸収スペクトルおよび白金(Ⅳ)の紫外可視吸収スペクトルの抽出に伴う変化について検討した。その結果、錯形成反応が配位子交換であるかアニオン交換であるかおよび、抽出試薬同士の分子間水素結合の有無について、さらに錯形成時の白金(Ⅳ)イオン周りの情報が明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のおおまかな流れは、まず現在までに得られている知見を基にした抽出試薬を合成しその抽出能力を検証する。次に、その抽出試薬の改善点を明確にするための抽出機構の解析手法を確立する。そうして得られた新たな知見を基に、より良い選択性の期待できる抽出試薬を合成し抽出能力を評価する。 今年度までの研究において、白金(Ⅳ)の抽出機構を解明するために、まず数種の水溶液における白金(Ⅳ)、N-メチルアセトアミド、およびN,N-ジメチルアセトアミドの赤外吸収スペクトルの変化傾向について検討し、アミド基カルボニル伸縮振動およびアミド基窒素水素変角振動の分子間水素結合形成の傾向を明らかとした。また、抽出後の白金(Ⅳ)の状態を観察するために錯形成前後のUV-Visスペクトルの変化傾向について検討し、白金(Ⅳ)クロロアニオン錯体の状態についての傾向を明らかとした。この結果を基に数種のアミド型およびウレア型抽出試薬による白金(Ⅳ)の抽出において、抽出試薬の赤外吸収スペクトルおよび白金(Ⅳ)の紫外可視吸収スペクトルの抽出に伴う変化ついて検討した。その結果、錯形成反応が配位子交換であるかアニオン交換であるかおよび、抽出試薬同士の分子間水素結合の有無について錯形成時の白金(Ⅳ)イオン周りの情報が明らかとなった。 また、共同研究において数種のアミド型およびウレア型抽出試薬による白金(Ⅳ)の選択的回収を目的とした実廃液からの抽出実験をおこなった。その結果、過剰量の他貴金属およびベースメタルイオン存在下において高い白金(Ⅳ)選択性を示した。 このように、複数の分光学的手法による抽出機構の解明および、共同研究において新規抽出試薬の開発がおこなわれ、それらが当初の見込み通りに遂行されたため、おおむね順調に進展している、と自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究において、これまでの研究においては明らかとなっていなかった白金(Ⅳ)の抽出における抽出機構の分光学的解析手法が開発された。具体的には、数種のアミド型およびウレア型抽出試薬による白金(Ⅳ)の抽出における、抽出試薬の赤外吸収スペクトルおよび白金(Ⅳ)の紫外可視吸収スペクトルの抽出に伴う変化について検討した。その結果、錯形成反応が配位子交換であるかアニオン交換であるかおよび、抽出試薬同士の分子間水素結合の有無について錯形成時の白金(Ⅳ)イオン周りの情報が明らかとなった。 次年度は、白金(Ⅳ)の抽出機構をさらに詳細に解明するために、塩酸溶液との接触および金属イオン充填前後の1H-NMRスペクトル解析、カールフィッシャー水分計による水分量の定量およびX線結晶構造解析をおこなう。それにより得られた知見を他貴金属クロロアニオンへ応用し、新規抽出試薬の開発をおこなう。これにより現在まで未解明の部分を含んでいた白金(Ⅳ)抽出機構について詳細に明らかになるだけでなく、ここで確立された解析手法を用いることによりその他貴金属に応用することが可能であると考えられる。
|