研究課題/領域番号 |
14J04080
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森竹 勇斗 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | メタマテリアル / 発光 |
研究実績の概要 |
第1年目はMEMSとメタマテリアルの融合による動的発光制御を実現するために、「発光現象とメタマテリアル構造との関係の解明」を目指し研究を行った。 発光は光領域での現象であるため、光領域で動作するメタマテリアルを用いる必要がある。また、発光を制御するためには発光波長で高いQ値をもつ共鳴を実現する必要がある。そこでメタマテリアル構造として非対称型ダブルバー(ADB)を選択した。ADBはわずかに長さの異なる一対のバーから構成され、単純な構造であるだけでなく、非対称性に起因するQ値の高い共鳴(Fano共鳴)をもつ。ADBメタマテリアルを微細加工技術により製作し、そのスペクトル測定結果から光領域でQ値の高い共鳴を観測することに成功した。これにより、ADB構造による高Q値共鳴を初めて実証することができた。 さらに、発光現象を動的に制御するためには、ADBメタマテリアルの構造パラメータの変化に伴って、Fano共鳴がどのように変調されるのかを調査する必要がある。そこでADBメタマテリアルの構造パラメータの変化がFano共鳴の共鳴波長やQ値にどのような影響を与えるのかを実験的に調査した。その結果、Fano共鳴のQ値は非対称度が小さいほど増加することなどを見出した。これにより、発光制御のための最適な構造パラメータを設計する指針を得ることができた。 ADBメタマテリアルによる発光現象の変調を観測するために励起レーザーと対物レンズやフィルタなどの光学素子を組み合わせた顕微発光測定系を作製した。測定する試料はADBメタマテリアル上に、量子ドットを含んだポリマーをコートすることで作製した。発光測定の結果、ADBメタマテリアルがない場合に比べ、およそ5倍の発光増強や、発光のピーク波長の変化の観測に成功した。これにより、量子ドットとメタマテリアルの結合による発光制御の実現に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第1年目では「発光現象とメタマテリアル構造との関係の解明」を目指し、数値計算によるメタマテリアル構造の検討、メタマテリアル構造の試作と評価、量子ドットとメタマテリアルの結合系による発光制御の実証を計画していた。 発光制御のための構造としてADBメタマテリアルを提案し、数値計算により発光制御に適する高いQ値の共鳴が得られることを確かめた。また、微細加工技術によりADBメタマテリアルを製作し、そのスペクトル測定結果から光領域でQ値の高い共鳴を観測することに成功した。 ADBメタマテリアルの構造パラメータである、非対称度、周期、ユニットセルのサイズ、ユニットセルの配列方法の変化がFano 共鳴の共鳴波長やQ値にどのような影響を与えるのかを実験的に調査した。その結果、Fano共鳴のQ値は非対称度が小さいほど増加すること、最も高いQ値が得られる最適な周期が存在すること、ユニットセルの配列を変えることでQ値を増強できること、などを見出した。 励起レーザーと対物レンズやフィルタなどの光学素子を組み合わせた顕微発光測定系を作製し、作製した測定系を用いて発光測定を行った。測定する試料はADBメタマテリアル上に、波長1350 nmの量子ドットを含んだポリマーをコートすることで作製した。発光測定の結果、ADBメタマテリアルがない場合に比べ、およそ5倍の発光増強の観測に成功した。また、Fano共鳴の共鳴波長の変化に伴い、発光のピーク波長も変化することを確認した。さらに、増強された発光は強い偏光依存性をもつことも確かめた。これにより、量子ドットとメタマテリアルの結合による発光制御の実現に成功した。 以上のように、第1年目の計画を全て達成した。また、すでに第2年目に計画しているMEMSデバイスの設計、及び作製を始めている。よって当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2年目では、当初の計画通り「動的発光制御のためのMEMS駆動メタマテリアルの実現」を目指し、研究を進める。 具体的には、まずADBメタマテリアルとMEMSを組み合わせたデバイスの製作を進める。フッ化マグネシウムを支持層としたデバイスの設計、試作を現在行っているが、プロセスの中で問題が発生した場合は、シリコンを支持層としたデバイスも検討する。そして、光学測定などでデバイスの評価を行う。この過程で得られた知見を活かし、発光制御のためのメタマテリアルMEMSデバイスの設計、及び製作に取り掛かる。MEMS駆動するメタマテリアル構造に加え、発光体を組み合わせる必要があるため、実際の作製では大きな困難が伴うことが予想される。そのため、量子ドットに限らず、発光ダイオードや量子井戸構造などの他の発光体を用いた構造も検討する。最後に、作製したMEMSメタマテリアルによる発光特性の変化を第1年目で製作した発光測定系などを用いて評価する。
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