研究実績の概要 |
ピリジリデンはピリジン骨格を有する1重項カルベンであり、従来のN-ヘテロ環カルベンよりも高い電子供与性を示すことが知られている。しかしながら、ピリジリデンの発見から70年以上経った現在でもその性質を活かした画期的な反応例は報告されていない。そこで我々は、ピリジリデンのカルベン配位子としての潜在性に着目し、2,2'-ビピリジル配位子と等電子構造をもつ新規2座配位子を設計した。この2座配位子は遷移金属と錯形成した場合に5員環メタラサイクルの形成し、2つのピリジリデンの高い電子供与性によって非常に電子豊富で安定な化学種の創製を可能にする。また、配位子からの強い電子供与を受けた遷移金属は高原子価状態が安定化されることが知られており、パラジウム4価やイリジウム5価といった化学種を経ることで通常困難な不活性結合の切断や新しい結合の形成が期待できる。 昨年度までに2座ピリジリデン配位子の合成及びパラジウムとの錯形成に成功しており、X線結晶構造解析によりその構造的特徴を明らかにした。今回我々は、2座ピリジリデン配位子の遷移金属触媒への応用を志向し、2座ピリジリデン錯体の反応性の調査及び様々な遷移金属との錯形成を試みた。検討の結果、高原子価遷移金属種の発生及びその応用に向けた知見を得た。またパラジウム以外の遷移金属との錯形成を示唆する結果を得ており、今後はこれらの知見をもとに配位子の構造を最適化し、新規触媒反応へと展開していく予定である。
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