研究実績の概要 |
ピリジリデンはピリジン骨格を有する1重項カルベンであり、従来のN-ヘテロ環カルベンよりも高い電子供与性を示すことが知られている。我々は、ピリジリデンのカルベン配位子としての潜在性に着目し、2,2'-ビピリジル配位子と等電子構造をもつ新規2座配位子を設計した。この2座配位子は遷移金属と錯形成した場合に5員環メタラサイクルを形成し、2つのピリジリデンの高い電子供与性によって非常に電子豊富で安定な化学種の創製を可能にする。また、配位子からの強い電子供与を受けた遷移金属は高原子価状態が安定化されることが知られており、パラジウム4価やイリジウム5価といった化学種を経ることで通常困難な不活性結合の切断や新しい結合の形成が期待できる。 今回、昨年度までに合成した2座ピリジリデン配位子を有するパラジウム錯体を用いてスクリーニングを行った結果、低収率ではあるもののピリジンやピレンに対して新しい位置選択性で炭素水素結合直接官能基化反応が進行することを見出した。この時、2,2'-ピリリジルや1,10-フェナントロリンといった配位子では反応が進行しなかったため、2座ピリジリデン配位子の有用性が示されたといえる。また、合成したパラジウム錯体の高原子価化学種の発生を試みたところ、温度可変NMRを用いることで目的化合物の観測及び高原子価状態からの還元的脱離の挙動を明らかにした。次に、2座ピリジリデン配位子を有するニッケル錯体の反応性を調査した。既に合成したニッケル2価錯体に対して塩酸塩を作用させることで対応するニッケル錯体が得られた。今後は電子豊富なニッケル0価錯体へと変換し、様々な不活性結合への反応性の調査と配位子の電子的特性の評価を行う予定である。
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