2核パラジウム3価錯体は炭素-水素結合直接官能基化反応における重要な中間体である。しかしながらその応用範囲はモノアニオン性2座配位子の官能基化に限られているため、2核パラジウム3価錯体の安定化が可能な中性電子供与性配位子の開発が求められている。そこで、強い電子供与が可能なピリジン骨格カルベン種である「ピリジリデン」に着目した。2座ピリジリデン配位子は遷移金属錯体の配位子として広く用いられているビピリジルやフェナントロリンと同様に平面性の高い5員環メタラサイクルを形成するため、2座ピリジリデン配位子同士のスタッキングとアセテート配位子の架橋効果によりパラジウム3価の安定化が可能であると考えた。量子化学計算を行った結果、2座ピリジリデン配位子を用いた場合に、これまでに報告されている中性2座配位子よりもパラジウム3価の発生が有利に進行することが示唆された。また、パラジウム2価アセテート錯体のX線結晶構造解析により、高酸化数状態のパラジウム種を発生及び安定化しうる2座ピリジリデン配位子の強い電子供与能が示唆された。次に2座ピリジリデン配位子を有するパラジウム錯体に対して酸化剤を作用させることで、パラジウムの高酸化数状態の発生を試みた。その結果、パラジウム3価を経由し、2座ピリジリデン配位子の還元的脱離が進行したと考えられる生成物が得られた。以上の結果はサイクリックボルタンメトリー測定において不可逆な酸化波が観測されたこととも良い一致を示しており、2座ピリジリデン配位子の電子的性質及び高酸化数状態のパラジウム種における挙動に関する知見が得られた。
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