本研究課題の目的である「確率ブーリアンネットワークを用いた細胞内シグナル伝達機構のモデル化とその解析手法の確立」を実現するために,平成26年度では,「シグナル伝達分子の活性を促進または抑制する分子の影響を考慮したモデルの構築と実装」,「計算機実験によるモデルパラメータについての考察」,「他のモデル化手法との比較実験」を行った.平成27年度では,前年度の成果を踏まえて,(1)「開発したモデル化手法の大規模シグナル伝達ネットワークへの適応と得られたシミュレーション結果の解析」,(2)「“rxncon”と呼ばれるシグナル伝達反応系の記述形式から確率ブーリアンネットワークモデルを自動生成するWebアプリケーションの提供」を行った. (1)に関しては,確率ブーリアンネットワークを用いた提案モデル化手法を出芽酵母の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)ネットワークに適用し,状態遷移に関する確率的シミュレーションを行った.この結果からMAPKネットワークはノイズに対して頑健なシステムであることが示された. (2)に関しては,本提案モデル化手法をWebアプリケーションの形式で,rxnconのホームページ(http://rxncon.org)から利用可能となっている. 以上の(1)と(2)の研究成果をまとめて,国際学術論文誌BMC Systems Biologyに論文を投稿し,採録されている. さらに,本研究課題の更なる発展を視野に入れ,細胞種によってシグナル伝達系やそのパターンは異なるという観点から,遺伝子発現パターンと細胞種に関する研究を行い,国際シンポジウムにてポスター発表を行った.
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