研究課題
植物独自の免疫システムは、2段階の質的に異なる抵抗反応で構成されるが、共通してMAPKカスケードを介して発揮される。1つのシグナル伝達経路が異なる応答を誘導する要因として、MAPK活性の持続時間の長さや強度の違いが考えられる。病原菌認識後のMAPKの活性動態を調べるには、従来の生化学的解析とは異なり、非破壊的にMAPK活性を評価できる実験系が必要である。本研究では、MAPKの活性動態を可視化するバイオセンサー (MAPKセンサー) を作製し、病原菌が感染した細胞でMAPK活性を時間的・空間的に観察することで、MAPKシグナル伝達機構の分子基盤を構築することを目的とした。本MAPKセンサーは、MAPKによる基質タンパク質のリン酸化に応答し、2種の隣接した蛍光タンパク質間で蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) が起こるように設計している。昨年度は、センサーに用いるMAPK基質断片の長さを検討し、病害応答性MAPKによる特異的リン酸化を評価することで、MAPKセンサーの最適化を図った。その結果、実用レベルのセンサーの目安であるFRET強度比 (ON/OFF) が1.3以上のMAPKセンサーが得られていた。本年度は、得られたMAPKセンサーをベンサミアナタバコに形質転換し、センサー植物の作出に成功した。FRET強度には、2種の蛍光タンパク質間の距離と角度が重要であることが知られており、生体内でより高効率なMAPKセンサーの構築を目指し、蛍光タンパク質に円順列変異を施すことで2つの蛍光標識の配向を調節した。また、ノイズとして検出されるバックグラウンドのFRETを抑える目的で、リンカーの種類と長さの検討も併せて行っている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、昨年度に作製した実用基準を満たすMAPKセンサーをベンサミアナタバコに形質転換し、センサー植物の作出に成功した。しかしながら、センサー植物の葉組織表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、MAPKセンサーは孔辺細胞においてのみ高蓄積おり、その他の表皮細胞において顕著な蓄積は認められなかった。MAPKセンサーには反復配列が含まれているため、植物細胞内のサイレンシング機構の影響を受ける可能性が示唆されている。したがって、本年度、高効率化を図る目的で新たに作製したMAPKセンサーでは、1つの蛍光タンパク質にコドン変異を施すことで、反復配列を回避するよう設計している。以上の方針によって、生体内で高蓄積・高効率型のMAPKセンサーが得られるものと期待している。
本年度に作製したMAPKセンサーをシロイヌナズナおよびベンサミアナタバコに導入し、モニター植物の作出を試みる。本研究では、MAPKセンサーに核外輸送シグナルと核局在シグナルを付加することで、核と細胞質基質にそれぞれ分配できることを確認している。シグナルペプチドを付加したMAPKセンサーを導入したモニター植物を作出できれば、核および細胞質基質でのMAPKの活性化を時間的・空間的に調べることができる。また、RFP標識した病原菌を接種し、病原菌の侵入に伴ったMAPKの活性化動態を一生細胞レベルで評価する実験系を構築する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Plant Cell
巻: 27 ページ: 2645-2663
10.1105/tpc.15.00213
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