研究実績の概要 |
我々の世界を構成する核子や中間子はクォークとグルーオンの複合粒子であり, それらは量子色力学(QCD)によって記述されると考えられている。有限温度・有限密度におけるQCDの性質を解明することは, ハドロン物理学の中心的課題である。特にQCDの相構造(QCD相図)と状態方程式は, 宇宙進化の過程や高密度天体の性質を解明するために不可欠な要素である。有限密度系でのQCDに関して多くの理論的予言がなされているが, QCDの第一原理計算である格子QCD計算は有限密度領域で実行困難であるため, 有限密度における相構造のほとんどは不確定である。 高温・高密度QCDの系を地球上で実験する手段として, 相対論的重イオン衝突実験がある。特に, アメリカのRHIC加速器で行われるビームエネルギースキャン実験はQCD相構造を探る重要な実験である。観測量の一つである陽子数揺らぎはQCD物質の臨界的振る舞いと深く結びついており, QCD臨界点を発見するのに重要な観測量である。実験量を解析し臨界現象のシグナルを見つけるに当たり, これらの量の基準となる振る舞いを知っておくことは重要である。平成26年度の研究で我々は粒子数揺らぎのスキューネスおよびクルトーシスに関して, 自由古典ガス近似と自由量子ガスの振る舞いの違いをみた。さらに, 核物質の飽和性を満足する有効模型を用いることで, 低温高密度領域において核子間相互作用がこれらの量に与える影響に関して解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度着目した重イオン衝突実験における粒子数揺らぎは, QCD相図に関する重要な情報を提供する量である。また実験場である加速器の将来計画として, これらの量の高精度測定が予定されている。従って, 第一原理計算や中性子星観測の情報に加えて重イオン衝突実験から得られる情報までを統合的に理解することは必要不可欠であり, 来年度以降の研究で進めていく予定である。
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