研究課題/領域番号 |
14J04241
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平田 英隆 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 急発達する温帯低気圧 (爆弾低気圧) / 黒潮/黒潮続流 / 中緯度大気海洋相互作用 / 気象災害 |
研究実績の概要 |
急速に発達する温帯低気圧(爆弾低気圧)は日本の気象災害の発生と関連しているため,その発達プロセスを適切に理解することは重要である.前年度の本研究の成果によって,黒潮・黒潮続流(暖流)域からの水蒸気供給と低気圧発達を繋ぐフィードバックプロセスの存在が示唆された.今年度はまず,暖流域からの水蒸気供給を除く数値実験を利用してこのプロセスの検証を行った. 雲解像モデルCReSSを用いて,暖流域からの水蒸気を除く実験と除かない実験を行い,二つの実験結果を比較した.暖流からの水蒸気供給を除いた実験では,除かなった実験よりも,後屈前線付近の潜熱加熱の生成および低気圧発達が抑制され,寒冷コンベヤベルトが顕著に弱化した.これらの結果は,これまでの研究で指摘してきたフィードバックプロセスが低気圧発達に対して有効に働いていることを支持する結果である. これまでの研究成果を発展させて,西部黒潮-親潮混合水域の海面水温変動が爆弾低気圧へ与える影響に関する調査を行った.CReSSを用いて西部黒潮-親潮混合水域の海面水温を改変した複数の感度実験を実施することで,当該海域の海面水温偏差に対して低気圧がどのような応答をするのかについて調べた.この調査の結果から,西部黒潮-親潮混合水域の海面水温は当該海域を通過する低気圧の中心近傍の東西非対称構造や低気圧に伴う対流圏下層の強風分布に影響を及ぼすことが明らかとなった. また,日本海に焦点を当てて,爆弾低気圧と関連する大気海洋相互作用について調査した.寒候期の日本海の海面水温の日々の変動について解析を行うと,1~2日の比較的短い期間で急激に海面水温が低下するイベントが発生していることがわかった.再解析データなどでこのイベント前後の大気循環場について調べたところ,爆弾低気圧を含む温帯低気圧が日本海を通過する際に,この海面水温低下が生じていることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一連の低気圧の再現実験およびデータ解析によって,暖流域からの水蒸気供給と爆弾低気圧の発達を繋げる詳細なプロセスが明らかとなった.また,この結果を基に暖流域における温帯低気圧の急発達に関する正のフィードバックプロセスを構築し,数値実験を利用してその効果を検証した.このフィードバックプロセスの発見は低気圧発達過程の理解を推し進める成果である.さらにこの成果を発展させることで,中緯度海洋(西部黒潮-親潮混合水域)の海面水温変動が個々の低気圧の構造や強風分布へ及ぼす影響についても明らかになってきた.本研究課題以前では得られていなかった新たな知見が着実に得られており,この成果の一部はすでに国際学術誌に掲載されている.このようなことから全体的に順調に研究が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
低気圧発達期には暖流域から水蒸気供給と共に顕熱供給も卓越する.顕熱供給は,対流圏下層の大気安定度の低下を介してこれまでの研究で指摘してきた低気圧発達プロセスを強化するセンスに働く可能性がある.このような観点から,顕熱供給が暖流域における低気圧発達へ与える影響について調査する.手法としては,これまでの研究成果を応用して,暖流域からの顕熱供給を除く数値実験を用いる. これまでの感度実験では実験初期時刻から海面からの水蒸気供給を除いていたので,実験期間前半のフィードバック過程と関連しない水蒸気供給の効果も除いていた.この問題を解決するために,実験初期時刻以外の時刻から海面からの水蒸気・顕熱供給を除く実験を行う.また,この複数の実験で再現された低気圧の特徴を比較することで,これまでの研究で提案してきたフィードバックプロセスを検証する. 複数の事例に対して,暖流域からの潜熱・顕熱供給を除く感度実験を実施することで,フィードバックプロセスの一般性や発動条件について調査する. 爆弾低気圧が日本海を通過する際に,日本海の海面水温の低下が生じる.この海面水温の低下は,低気圧によって海洋内部に誘起された湧昇流や低気圧後面の寒気移流による冷却効果によってもたらされたと推測される.また,この海面水温の低下は,潜熱・顕熱供給を減少させることによって,低気圧後面の寒気移流場で形成される雪雲やメソ擾乱などへ影響することが考えられる.これらについては,大気海洋結合モデルなどを用いてさらなる解析を進める.
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