本年度は、ドイツの公法学説および連邦憲法裁判所・連邦行政裁判所の判例を手掛かりに、合憲解釈(憲法適合的解釈)が後の統治過程に及ぼしうる法的効果の解明を目標に研究を行った。その研究成果は以下のようにまとめられる。 憲法適合的解釈の法的効果については、法適用機関と法制定機関とを区別して理解する必要がある。 第一に、法適用機関に対する法的効果について、まず、連邦憲法裁判所の憲法適合的解釈は、連邦憲法裁判所法31条1項の拘束力により他の機関を拘束する。すなわち同裁判所は、拘束力の判決理由への拡張・判決主文と憲法適合的解釈との結合を通じ、自身の憲法適合的解釈に拘束力を認めている。次に、一般の裁判所の判決に同法の拘束力は付与されないが、最上級審判決の事実上の拘束性や上訴制度に基づく間接的な拘束力といった制度的担保を通じて、憲法適合的解釈は後の法適用機関を(事実上)拘束していると言える。このように、実定法的・制度的背景によって、後の行政・裁判所は憲法適合的解釈に従った法適用を促されていることが明らかとなった。 第二に、法制定機関に対する法的効果について、上述の拘束力は立法者にも及ぶものの、憲法適合的解釈に従った法改正までが義務付けられるとは解されていない。立法者の法改正の不作為に対する損害賠償や、憲法異議を認めようとする学説も一部見られるが、有力化には至っていない。反対に、憲法適合的解釈により民主的過程や法改正が阻害されるという側面が批判されていた。 加えて、憲法適合的解釈の考察を深化させるためには、憲法と他の法領域(とくに私法・国際法(EU法))との関係に係る理論的考察が不可欠である。そこで本年度は、ドイツの研究者の日本における講演の翻訳という形で(①クリスティアン・ブムケ「法における自律」、②ハンス・クリスティアン・レール「公法にとっての国際化の挑戦」)、この点について考察を深めた。
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