研究課題
本研究では、自己免疫疾患モデルマウスを用いて腫瘍移植実験を行うことにより、新規の腫瘍免疫制御機構を明らかにすることを目的とする。コントロールとしてC57BL/6 (B6)マウスを、自己免疫疾患モデルとしてB6/lprマウスを用い、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)強発現悪性黒色腫細胞(B16F10/mGM)を皮下移植し3週間後に解析を行ったところ、B6/lprマウスに移植したB16F10/mGMの重量は有意に亢進し、B6/lprマウスの生存率の低下が観察された。放射線照射を行ったB6/lprマウスに対し、B6及びB6/lprマウスの骨髄細胞を移植し、骨髄キメラマウスを作成した。これらのマウスにB16F10/mGMの移植を行うとB6BMCキメラマウスに比較しB6/lpr BMCキメラマウスで腫瘍重量の有意な亢進が認められたため、B6/lprマウスの血球系細胞の関与が示唆された。移植腫瘍中の各免疫細胞数をflow cytemetryにて解析を行うと、対照群に比較しB6/lprマウスにおけるF4/80+CD11b+CD11c+CD206-のM1マクロファージ数の有意な減少が認められたことより、B6/lprマウスでは腫瘍中におけるM1マクロファージ数が低下しているため、腫瘍の増殖が亢進したと考えられる。腫瘍中の血管数は、B6/lprマウスでは有意に亢進しており、移植腫瘍中のVEGF-A(vascular endothelial growth factor)はタンパク量及びmRNA量のいずれもB6/lprマウスで有意に亢進していた。VEGFの発現を亢進させる要因として腫瘍の低酸素状態に着目し腫瘍組織中の低酸素状態を、Pimonidazoleを用い蛍光免疫染色により検出すると、B6/lprマウスでは低酸素状態にある腫瘍細胞が広範囲の存在することが確認された。また、VEGF-Aの転写因子であり、低酸素によって誘導されるHIF-1αの発現を蛍光免疫染色により検出すると、B6/lprマウスにおける発現の亢進が認められた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度において、新規の腫瘍免疫制御機構解明を目的に自己免疫疾患モデルマウスに腫瘍を移植した免疫複合モデルを用い、腫瘍組織中の免疫動態を詳細に検討し研究を精力的に遂行した。結果、自己免疫疾患モデルに移植した腫瘍の増殖は亢進すること、腫瘍組織中に浸潤しているM1マクロファージ数が減少すること、腫瘍組織中で腫瘍血管の増生が見られることを見出した。さらに自己免疫疾患モデルでは腫瘍組織は低酸素状態にあり、転写因子HIF-1α及び血管内皮細胞増殖因子VEGF-Aの発現が亢進していることを見出した。これらは自己免疫疾患罹患者における癌高罹患率を説明し得る知見となる可能性がある。以上より当初の研究計画をおおむね順調に遂行していると評価できる。
今後はB6/lprマウスにおけるM1マクロファージ数の減少についての詳細を検討していく予定である。B6/lprマウスにおいて、単球のM1マクロファージへの分化が阻害されているのか、若しくは腫瘍組織中へのM1マクロファージの浸潤能が低下しているのかどうかの検討を行う。B6/lprマウスにおける腫瘍血管の増生が、HIF-1α及びVEGFAの発現亢進に起因することは確認されたので、B6/lprマウスでは腫瘍増生の亢進により低酸素が誘導されHIF-1αの発現が亢進したのか、若しくはB6/lprマウスの免疫細胞からの何らかの因子により腫瘍細胞のVEGFAの発現が亢進したのかどうかを検討する。さらには今回確認された腫瘍増殖能の亢進が他の自己免疫疾患モデルマウスでも同様であるかどうかを比較検討する。
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Am J Pathol
巻: 185 ページ: 151-161
10.1016/j.ajpath.2014.09.006