研究課題
本研究では、核内チロシンリン酸化シグナルによるクロマチン構造制御メカニズムの解明を目的としている。一年目は、クロマチンの構造制御に関わるヒストン修飾酵素やそれに関わるタンパク質の中から、新規のチロシンリン酸化基質候補タンパク質を同定し、クロマチン構造のチロシンリン酸化を介した制御の分子メカニズムを解析することを計画していた。 Src型チロシンキナーゼの一つであるLynに核局在シグナル(NLS)を付加した変異体(NLS-Lyn)を安定発現する細胞から、核内の新規基質を質量解析によって同定した。その結果、ヒストン修飾に関わる分子として A-kinase anchoring protein 8 (AKAP8) に着目した。AKAP8はクロマチンや核マトリクスに結合し、ヒストンを脱アセチル化する酵素やヒストンのメチル化を誘導する酵素などの分子と結合し、必要な領域にとどめておく働きを持っている。まず、AKAP8のチロシンリン酸化について確かめる実験を行なった。AKAP8をN末端にmycタグが付加してあるベクターに組み込み、myc-AKAP8の発現ベクターを作製した。myc-AKAP8とNLS-Lynを細胞内に共発現させ、抗myc抗体によってタンパク質の精製を行なった。その結果、myc-AKAP8のチロシンリン酸化を検出することが出来た。AKAP8がチロシンリン酸化されることでその機能にどのような変化あるかについて調べた。AKAP8の核構造への結合能を調べるために界面活性剤を含む緩衝液を用いて細胞を抽出したところ、NLS-Lynの発現によって結合したAKAP8が消失していることがわかった。これらの研究成果の一部を国際学会誌に発表した。今後も、クロマチン構造変制御との関連も含めてさらなる解析を進めていく。
2: おおむね順調に進展している
本年度は核内チロシンリン酸化基質の探索とその機能解析を主に行った。核内チロシンリン酸化基質の候補としてAKAP8という分子に着目した。COS-1細胞にmyc-AKAP8とNLS-Lynを共発現させ、Triton-X-100 Lysis buffer によって細胞を可溶化した後、抗myc抗体を用いて免疫沈降を行なった。免疫沈降によって精製されたmyc-AKAP8を抗チロシンリン酸化抗体を用いたウェスタンブロッティングを行なったところ、myc-AKAP8のチロシンリン酸化を検出することが出来た。このことから、AKAP8は核内におけるSrc型チロシンキナーゼの基質であることがわかった。つぎにAKAP8のチロシンリン酸化によって、AKAP8の機能にどのような変化が起きるかについて調べた。機能の変化を調べるにあたって、私はAKAP8の局在がチロシンリン酸化によってどのように変化するかについて詳細に調べた。ヒト子宮頸がん由来細胞であるHeLa S3細胞にNLS-Lynをトランスフェクションし、免疫蛍光染色法によってAKAP8の局在観察を行なった。通常AKAP8は核構造に結合したような局在を示すが、NLS-Lynの発現によってAKAP8の局在が核内に拡散している様子が観察された。このAKAP8の観察像から、私は核内にチロシンリン酸化が誘導されることによって、AKAP8の核構造への結合が減少しているのではないかという仮説を立てた。そこで、AKAP8の核構造への結合能を調べるために界面活性剤を含む緩衝液を用いて細胞を抽出したところ、NLS-Lynの発現した細胞では核構造に結合しているAKAP8はまったく観察されなかった。このような解析からAKAP8のチロシンリン酸化を介した機能の変化を解析することが出来た。
in vitroの解析では、AKAP8のチロシンリン酸化されない変異体を用いた解析や、チロシンリン酸化をクロマチン構造変換との関わりを現在所属している研究室で開発したクロマチン構造変換定量法をもちいて評価することや生理学的な意味合いについてもさらに探索していきたいと考えている。AKAP8はヒストン脱アセチル化酵素であるhistone deacetylase 3 (HDAC3) やヒストンのメチル化を誘導する酵素であるHistone-lysine N-methyltransferase 2D (MLL2)などの分子のリクルートに関わっていることが知られている。そのため、AKAP8のチロシンリン酸化を介したヒストン修飾の変化についても着目して行きたいと考えている。また、AKAP8は転写の制御にも関わっているため、直接AKAP8によって転写が制御されるような遺伝子を解析していきたいと考えており、特にチロシンリン酸化と関わりの深い酸化ストレス応答関連遺伝子に着目していきたいと考えている。さらに、AKAP8以外の基質にも着目し核内チロシンリン酸化シグナルを介したクロマチン構造変換の分子メカニズムについて引き続き解析していきたいと考えている。in vivo での解析については、来年度からin vivoの解析をすることが出来る研究室に異動し、マウスを使った実験手技を修得する。その後、KAP1のチロシンリン酸化されない変異体であるKAP1-3YF変異体を用いたマウスの作製に取り組みたいと考えている。マウスを用いたin vivoでの解析を行ない、分化過程におけるチロシンリン酸化を介したクロマチン構造変換の生物学的意味について詳細に調べる計画をしている。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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