研究実績の概要 |
シングレットフィッション(singlet fission, 以下SF)は、分集合体中で起きる、光励起状態における過程の一種である。そこでは、可視/紫外光によって励起された分子(一重項励起子)が近くの基底状態にある分子と相互作用することにより、それら二分子ともが三重項励起子(三重項対状態)となる。この、一つの励起子から二つの励起子を生成する過程を生かして、有機太陽電池の光電変換効率の向上が期待されている。 平成26年度より継続して本研究を行い、高効率なSF実現の為の理論設計指針を構築してきた。ここには、(i) 分子レベルでの一重項/三重項対のエネルギー準位が適合する分子の設計、(ii) 分子間の電子相互作用の分子配向や橋(後述)の設計、(iii) 振電カップリングの設計、などが含まれる。これらの複合的な作用によって全体のSFダイナミクスが決まる。平成28年度の研究では、特に(ii)電子相互作用に関する研究において、分子内と分子間SFのそれぞれについて進展があった。前者では複数架橋体へと拡張を行い、エネルギー準位の系統的な設計に成功した。後者では、新規なクラスの物質系(パンケーキ結合系)のSFへの高いポテンシャルを示した。これはSFの物質科学領域を大きく広げるものと期待される。ダイナミクスに関しては、マスター方程式を用いた量子ダイナミクスを行うことでSFへの電子・振電カップリングの与える影響を実時間シミュレーションすることで明らかにした。また、昨年度の研究報告書において報告した、縮環炭化水素の芳香環・立体障害によるねじれの導入による新規SF分子の設計、量子干渉効果を用いた分子内SFの設計については28年度に論文としてそれぞれ出版した。
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