本研究の目的は現在までに行われてきた実験結果を手がかりにして超対称標準模型の現実的な模型を構成し、その模型を検証することである。模型の検証のためには実験との比較が必要であり、現在または将来の実験で測定可能な物理量を予言することもこの研究の目的である。 2年目では、高いスケールの超対称模型における核子の電気双極子(EDM)モーメントについての研究を行った。EDMは対称性の破れに感度のある物理量であり、実験から核子や電子のEDMに対して制限が与えられている。標準模型の予言するEDMは現在計画されている実験の感度に比べて非常に小さいことから、EDMは標準模型を超える物理のCPの破れに対して非常に高い感度のある物理量であるといえる。 本研究では最小超対称標準模型をより現実的な模型にするための拡張として高いスケールの超対称模型を考える。この模型ではスフェルミオンは100TeV付近の質量を持っており、一方でゲージーノは数TeV付近の質量を持っている。この質量スペクトルを実現する最も単純な模型はアノマリー媒介機構を用いたものであり、より一般的な模型としてゲージ媒介機構を含む模型も提案されている。 そのため本研究ではアノマリー媒介機構のみを含む単純な模型とゲージ媒介機構も含むより一般的な模型をEDMを用いて区別できる可能性があるかどうかを調べた。アノマリー媒介機構による最も単純な模型ではBarr-Zeeダイアグラムと呼ばれる2ループのダイアグラムが電子や核子のEDMに対して主要な寄与となっている。一方でゲージ媒介機構を含んだ拡張された模型ではゲージーノの質量に物理的な位相が生じ、核子のEDMに対して新たな寄与となる。解析の結果、この新たな寄与が最も単純な模型でも存在するBarr-Zeeダイアグラムの寄与と同程度の寄与になるパラメータ領域があることがわかり、核子のEDMを用いて模型を区別できる可能性を示した。
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