研究課題
ペルオキシソームは脂質代謝と活性酸素分解を担う、全真核生物の生存に必須な単膜系オルガネラである。ペルオキシソームは分裂によって増殖し、その異常は神経性疾患など重篤な表現型を示すことが知られている。これまでに我々は、モデル真核生物シゾン使って、直径500 nm のリング構造の分裂装置Peroxisome-dividing (POD) machinery の収縮により、ペルオキシソーム分裂面の形成と膜の分断が行われることを明らかにしてきた。しかし、POD machinery の真核生物界における構造の普遍性と、収縮機構は全く明らかになっていない。本研究の目的は、1) 哺乳動物細胞におけるPOD machinery の構造解明、2) POD machineryの収縮機構の解明である。1) に関しては、CHO細胞より分裂期のペルオキシソーム、さらにはミトコンドリアを形態学的に無傷に単離分画することに成功した。この画分を両性イオン性界面活性剤で処理することで、直径500 nmのリング構造を蛍光顕微鏡レベルで見出し、哺乳動物にも分裂リングが存在する可能性を示唆した。2) に関しては、POD machinery 及びミトコンドリア分裂装置(MD machinery)からDnm1 richな画分を精製する方法を開発した。この画分を質量分析(LC-MS/MS)によって解析し、数種類のGTPaseDnm1結合タンパク質候補遺伝子を同定した。さらにこの中から、POD・MD machineryの収縮に重要な新規分裂因子Mitofuelin1 (MIF1)を同定することに成功した。シゾンと哺乳動物培養細胞で詳細な機能解析を行い、現在論文投稿準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
CHO細胞を用いて、ペルオキシソームのみならず、分裂期のミトコンドリアの無傷単離に成功し、免疫蛍光顕微鏡レベルで単離したリングの観察に成功している。シゾンを用いた系では、LC MS/MSによってDnm1に結合する候補因子を絞り込み、さらにはこれらの中から新規分裂因子としてMIF1の同定・機能解析にまで進展させ、当初の計画以上に進展している。
1) 哺乳動物細胞におけるペルオキシソーム分裂POD machineryの構造探索リング構造の単離は可能になったが、その微細構造は不明である。そこで、単離したリング画分を抗DLP1(ダイナミン様タンパク質)抗体と抗Mff(DLP1受容体)抗体を用いた免疫電子顕微鏡観察により微細構造を観察する。ペルオキシソームから単離したPOD machineryとミトコンドリアから単離したMD machineryのそれぞれの構造の違いを明らかにし、シゾンのPOD・MD machineryとの構造と比較解析を行い、収縮機構を推察することを計画している。2) POD ring収縮因子候補遺伝子の探索MIF1がPOD machineryとMD machineryの収縮に重要であることは示唆されたが、その生化学的機能は不明瞭である。MIF1はヌクレオチド交換因子(NDK)ドメインと部分的に相補的な配列を持つため、その機能はATP又はGTPの生成であることが推察される。そこでMIF1の酵素活性測定と、in vitroでDnm1との結合解析、ネガティブ染色によるassembly解析を行い、生化学的機能を明らかにする。また抗MIF1抗体を用いた免疫電子顕微鏡観察により、POD・MD machineryの構造中における局在解析を行うことを計画している。
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Cytologia
巻: 79 ページ: 501 507
10.1508/cytologia.79.501