研究課題/領域番号 |
14J04580
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
松本 恵一 上智大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | シリコンフォト二クス / 直接貼付法 / III-V族半導体 / MOVPE / InP/Si基板 |
研究実績の概要 |
薄膜化したInP層をSi基板と貼合わせ、この貼合わせ基板上に有機金属気相成長(MOVPE)法を用いてInP系半導体結晶を成長する技術を提案してきました。これに対し、昨年度は貼合わせ基板の接合界面における物性の調査及び光デバイス集積の検討を行いました。 物性の調査は、主にInP-Si基板間の接合界面における電気特性の評価及び、加熱処理中に生成されるH2Oによる未接合界面の低減が目的です。これらの調査は光デバイスを作製した際の低歩留まり、信頼性低下を防ぐものであり、本テーマにおいて非常に重要です。これに対し、電気抵抗を下げるためには加熱温度を上昇させる必要があることを確認しました。また、未接合界面は加熱処理時の昇温時間を長時間化することで大幅低減に成功し、学会誌にて報告を行いました。その他、本テーマは選択MOVPE法と呼ばれる選択的に異なるバンドギャップエネルギーを持つ結晶を成長させる技術を異種基板上で実現できる特色があるため、InP/Si基板及びInP/ガラス系材料基板に対し再現実験を行いました。その結果、選択成長によるバンドギャップエネルギーの制御に成功し、国際学会にて報告を行いました。 デバイス集積に関しては、InP/Si基板上に量子ドット構造を用いたLEDの集積を行ったことと、InP系レーザの集積を行ったことが挙げられます。量子ドットLED構造には電流注入を施し、EL発光を確認しました。この結果は世界初であったため、学会誌及び国際学会、国内学会にて報告を行いました。今後の課題としては、主に発光強度の改善が挙げられます。また、InP/Si基板上へのレーザ構造の集積実験では、測定条件に制限はあるものの、発振動作を確認することができました。今後は薄膜InP層及びレーザ構造のそれぞれに対して最適化を行い、デバイスの高性能化、高信頼化に繋げる方針です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本テーマにおける最大の技術課題のひとつは、直接貼付InP/Si基板上にInP系半導体結晶を成長する手法を用いて、Si基板上にInP系の光デバイスを集積することにあります。そのためにはInP-Si接合界面での電気抵抗が十分に低いこと、さらにSi基板上に貼合わされた薄膜InP層が十分に平坦で未接合箇所が少ないことが必要条件になります。これに対し、昨年度は界面での電気抵抗を下げること及び界面の未接合箇所の低減によるInP層の平坦性向上に成功しました。これによりInP/Si貼合わせ基板をInP基板と大差なく扱えるようになったため、従来の半導体前工程をそのままInP/Si貼合わせ基板に適用できるようになりました。その結果、選択MOVPE成長技術の実現や量子ドットLEDの集積が可能となり、投稿論文の作成及び国際学会における発表を行うことができました。また、これまで本研究室では半導体レーザの作製手法に関して全く技術的なノウハウがない状態でしたが、実験を通してレーザ構造の作製条件を絞り込み、InP/Si基板上においてデバイスとして動作させることに成功しました。この結果は本年度の国際会議で発表することが決定しています。その他、結晶成長されるInP系導波路の断面形状と薄膜InP層の結晶方位依存性、作製したInP/Si 基板の機械的な接合強度の測定、InP-Si間の共有結合発生温度推定に関する実験等、InP/Si基板の物性的な調査も順調に進展しています。 今後の課題として、デバイスの高性能化、高信頼化及び作製歩留まりの向上といったことが挙げられますが、InP/Si基板上に作製された半導体レーザの動作を確認できたことは、本テーマにおける最大の技術課題のひとつを達成したことに等しく、テーマが当初の計画以上に進展したと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
主な課題として半導体レーザの高性能化・高信頼化が挙げられます。これに対し、今後は結晶成長時の成長条件出し及び蒸着や露光といった半導体プロセスのプロセス条件出しをこれまで以上に推進することで作製条件の最適化を行う方針です。また、半導体レーザとして完成はしていないものの、発光が確認できるデバイスに対して、測定結果を積み上げ、InP基板上に作製した場合との発光強度や波長、寿命等の差を調査したいと考えています。特に、寿命測定は我々が提案したSi基板上InP系光デバイスの作製手法が産業的に確立しうる技術であることを示すという点から非常に重要な項目だと考えています。 同時に、接合界面での発熱及び電気特性のシミュレーションを行うことで、InP/Si基板の接合界面における抵抗成分が集積されたデバイスに与える影響を調査し、結果に基づいてInP/Si基板の最適化を図りたいと考えています。その上で十分な信頼性や依存性をまとめ、投稿論文の作成及び国際会議での発表を行いたいと考えています。 そして、最終的には最適化されたInP/Si基板上に選択MOVPE結晶成長技術を用いることで、多波長光源の集積を実現することと、半導体レーザを初めとする複数種の光デバイスが一度の結晶成長とその後のプロセスのみでSi基板上に集積できるということを実証したいと考えています。このことは、多種多様な光デバイスを容易に高密度集積できるという、従来の集積方法にはない本テーマの特色を示すことに相当し、論文発表を行うことができると考えています。 その他、これまでの研究を通して、本技術はSi基板のみならず石英系の材料にも応用可能であることが確認できています。そこで、任意の形状の石英材料に薄膜InP層を貼合わせ、結晶成長によるデバイスの集積化が実現可能かという点についても調査を行いたいと考えています。
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