研究課題
LATS1(Large tumor suppressor)は癌抑制遺伝子として同定されたセリン・スレオニンキナーゼである。LATS1と相同性をもつDbf2キナーゼは、分裂酵母においてDbf2-Cdc14伝達系によりユビキチンリガーゼであるAPC/Cを介して、分裂期脱出(Mitotic Exit Network: MEN)を制御することが知られている。一方でLATS1の細胞周期分裂期における詳細な制御機構については不明な点も多い。そこで本研究では、LATS1による細胞周期における新たな機能を解明するため、網羅的なリン酸化プロテオーム解析を行った。 LATS1によりリン酸化されるタンパク質を探索したところ、APC/Cのcomponentの一つであるCDC26を同定した。続いてリン酸化部位を同定するために、in vitro kinase assay解析を行った結果、CDC26 T7のリン酸化部位を同定した。CDC26 T7に対するリン酸化抗体を作成し解析したところ、分裂期でCDC26 T7のリン酸化が増強し、LATS1およびLATS2のノックダウンにより減少することから、LATS1/2がCDC26のリン酸化に関与していることが明らかになった。CDC26はAPC/C内においてTPR(tetratricopeptide repeat)モチーフを有するAPC6と直接結合しているが、T7をアスパラギン酸(D)に変異したタンパク質(CDC26 T7D)ではAPC6との結合が低下した。さらに内在性のCDC26をCDC26 T7Dに置換し、ゲル濾過クロマトグラフィーにより解析を行うと、APC/Cの会合が変化した。本研究により、APC/Cをリン酸化するキナーゼとしてLATS1/2が同定され、LATS1/2が直接APC/Cに作用するメカニズムが存在することが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
今回、LATS1の新規基質としてCDC26を同定することができた。CDC26は、ユビキチンリガーゼAPC/Cを構成するタンパク質の一つである。解析対象がタンパク質の複合体であるために、タンパク質間の結合やAPC/Cの機能解析を証明するために非常に苦労したが、他施設との共同研究を行うことにより、ゲル濾過クロマトグラフィー及び分子動力学的シミュレーション解析による多角的なアプローチを行うことができた。その結果、論文発表に至ることができたため当初の計画以上の進展があったと評価したいと考えている。
今回、LATS1によりリン酸化されるタンパク質としてCDC26を同定し、CDC26 T7がリン酸化部位であることを発表した。研究の段階で、CDC26のカルボキシル末端にはBRCT binding motifを有し、LATS1によるリン酸化を受けるセリン/スレオニンが存在することを得ている。今後はさらにカルボキシル末端のリン酸化部位の意義について解析を行い、LATS1による分裂期制御機構を解明したいと考えている。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
PLoS One
巻: 10 ページ: e0118662
10.1371/journal.pone.0118662