研究実績の概要 |
本研究では、研究課題に「光機能分子に対する理論的総合研究」を掲げ、実験との比較だけでなく実験では見ることが出来なかった光機能ダイナミクスの理論化学の立場からの詳細な解明を目的としている。平成26年度には、以下の3つのテーマに取り組んだ。 (1)「気相および液相での1,3-シクロヘキサジエン/1,3,5-ヘキサトリエン間光異性化反応に対する理論的研究」 (2)「硫酸の光解離過程に関する理論的研究」 (3)「二酸化硫黄の液相中での光化学反応に関する理論的研究」 主たるテーマとして取り組んだ(1)では、すでに気相並びに液相の実験が報告されている1,3-シクロヘキサジエンと1,3,5-ヘキサトリエン間における光異性化反応に着目し、古典軌道ホップ法(TSH法)に基づく非断熱ab initio分子動力学計算による全自由度を考慮したシミュレーションを行った。本研究では非断熱遷移確率の計算に、Zhu-Nakamura公式を用いた。気相中を想定とした研究では、今まで報告されていた第1励起状態への励起のみならず、第2励起状態への励起も考慮した全自由度シミュレーションの結果から、非断熱遷移に関わる分子振動並びに励起先の違いにより生成比が変化することが新たに解明された。液相中のシミュレーション結果でも実験と定量的な一致が見られており、引き続き計算を行っている。現在これらの結果をまとめた論文を作成中である。テーマ(2)では、紫外領域における硫酸の光解離過程について非断熱ab initio分子動力学計算を用いたメカニズム解明を行い、新たに水素原子と硫酸水素への解離経路を示し論文発表を行った。テーマ(3)については二酸化硫黄の大気エアロゾル中での光反応の解明を目指すもので、実験の困難である当該系に対し理論的アプローチからの解明を目指すべく計算に着手した。
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