研究課題/領域番号 |
14J04669
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
嶋根 真奈美 東京農工大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | ホルボールエステル / 生合成 / ジテルペノイド / ナンヨウアブラギリ |
研究実績の概要 |
本研究の目的はトウダイグサ科植物の生産するホルボールエステル類の生体内合成経路を明らかにすることである。ホルボールエステル類は強力な発がん活性,抗腫瘍活性や抗ウイルス活性など様々な生理活性を持つことが知られ,ホルボールエステル類に共通するチグリアン骨格の形成酵素遺伝子を明らかとすれば,有用ホルボールエステル類の発酵生産などにつながる。本研究の特色は生合成遺伝子の迅速かつ精確な機能解析法, すなわち酵素合成法と安定同位体標識化・NMR分析を組み合わせた手法にあり,チグリアン骨格形成酵素の探索に取り組んだ。 本年度はまずチグリアン骨格形成酵素遺伝子候補の選出を行った。ホルボールエステル類生産植物ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)を栽培し遺伝子情報ソース・遺伝子のクローニング材料とした。次世代シークエンサーにより取得した葉の発現遺伝子データ(RNAseqデータ)・公開されているゲノムやRNAseqデータをもとに候補遺伝子を探索した。3つの既知植物テルペン環化酵素配列をもとに相同性検索を行い54候補を得た。54候補に潰え系統樹解析を行い,機能の予測を行った。さらにRNAseqデータなどから発現している候補遺伝子の絞り込みを行った。その結果, 8つの候補遺伝子が発現していることが示唆された。これらについてcDNAライブラリーからクローニングを行い,機能解析を行った。現在うち1つに関しては機能解析が終了した。組換え酵素を作製し酵素生成物を機器分析したところ, ent-kaurene合成酵素(KS)遺伝子であることが明らかとなった。KSは植物ホルモンジベレリンの生合成に関与する酵素である。目的の酵素遺伝子ではなかったが,ナンヨウアブラギリはバイオ燃料原料として期待されている植物でもあり,収量への関与が予想されるジベレリンの生合成に関与する遺伝子を明らかにすることができた。現在, 他の候補に関しても解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは, 酵素合成によるテルペノイドの完全13C標識化技術を確立し, これを応用したテルペノイド生合成酵素の迅速かつ精確な機能解析法に取り組んでいる。今年度は特にこの技術のさらなる展開を目指し, 植物由来ジテルペン類骨格合成酵素の機能解析法の確立, そして3-6-7-5員環という特異な骨格: チグリアン骨格を形成する生合成酵素の同定に取り組むことを目的としていた。 本年度は当該手法により2つの植物由来ジテルペン環化酵素の機能解析を行い,完全13C標識化技術による機能解析法について広く応用が可能であることを示した。ホルボールエステル類生合成についても,生産植物ナンヨウアブラギリについて人工環境下で安定的に栽培し,また発現遺伝子の探索に用いるRNAやcDNAライブラリーを調製することができた。得られた配列情報や既に公開されているナンヨウアブラギリ遺伝子データから目的の候補遺伝子を探索し,最終的に8個まで候補を絞り込むことができた。以上により,今年度の目標の前半は十分に達成されたと言える。候補遺伝子の機能解析については,すべての候補遺伝子について機能解析を行うことはできなかったが,一部については機能解析を行うことができた。得られた結果は目的のホルボールエステル類生合成に関わる酵素遺伝子ではなかったものの,植物の成長調節に重要な役割を果たすことが予想される遺伝子であった。また,ナンヨウアブラギリ由来テルペン環化酵素について初めて機能解析の例をしめし,残る候補遺伝子について解析を進める端緒となった。本年度目的の後半である候補遺伝子の機能解析についても一定の成果を得た。当初の計画以上ではなかったが,本年度の目標をおおむね達成したため,達成後区分はおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として当初の予定通り,ホルボールエステル類生合成に関わる遺伝子候補8遺伝子のさらなる機能解析を進める。また,ホルボールエステル類生合成の全容を解明に向け,再度次世代シークエンサーを用いた解析も進める。また,これらと同時に機器分析(LC-MS)によるホルボールエステル類分析条件の検討も進め,植物体におけるホルボールエステル類関連化合物の分析を行っていきたいと考えている。 次世代シークエンサーによる解析に関しては,既に実験に取り組み始めた。以前取得したデータは植物体全体を用いていたものであったので,これに加え,植物体の部位を限定したデータを得ることを目的としている。栽培したナンヨウアブラギリより新たにRNAを抽出し,解析を進めている。また,トウダイグサ科植物は広くホルボールエステル類やその関連化合物を合成することが知られており,ナンヨウアブラギリの他にも解析材料を得ることで,広くトウダイグサ科に共通する特徴的なジテルペノイド生合成系の解析が可能になる可能性がある。機器分析によるホルボールエステル類の分析が可能となれば,各種植物体を用いて標識化合物を出発物質とした代謝実験なども容易になると考え,以上を計画した。
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