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2014 年度 実績報告書

ヘーゲル哲学体系における自然と精神の関係から読み解く、自然美と芸術美概念の再検討

研究課題

研究課題/領域番号 14J04784
研究機関早稲田大学

研究代表者

瀧本 有香  早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2014-04-25 – 2017-03-31
キーワード翻訳 / ヘーゲル美学
研究実績の概要

本年度はヘーゲルが哲学、美学を形成する上での影響関係にあったシェリングやヘルダーリンとの共通点や相違点の検討、また美学講義録の翻訳などに重点を置いて研究を進めた。
まず2014年7月の早大哲学会大会にて、「シェリングとヘーゲルの芸術観――「自然模倣説」への批判を中心に」というタイトルで発表した。当発表では、シェリングとヘーゲルの関係についてこれまで盛んに研究はなされてこなかった芸術をめぐる言説に焦点を当てた。両者の芸術哲学の共通点、また相違点を明るみにすることを目的とし、その切り口として、長らく支配的であった芸術における「自然模倣説」に対して彼らがどう批判したのかに着目した。そして、当発表をもとにした論文「シェリングとヘーゲル――その芸術観と芸術の地位」を早大哲学会編『哲学世界 第37号』に執筆した。
また私は、ズーアカンプ版全集に収められているホトー版の『美学講義』ではなく、彼がベルリン大学において四回行った美学講義(1820/21年、23年、26年、28/29年)の筆記録をもとに、それぞれの比較検討を踏まえた上で研究を行っている。ヘーゲル美学研究において筆記録の参照が求められている状況の中、明治学院大学の寄川条路教授監修のもと、現在ヘーゲルの1820/21年の『美学講義』の翻訳書の出版(2015年発行予定)の共訳者として、「芸術の特殊的部分」の章の翻訳を進めている。また同教授監修のもと、Hegel-Studien, Bd. 26 (Bonn: Bouvier, 1991)の翻訳書の出版(オットー・ペゲラー編『ヘーゲル研究――ヘーゲルの講義録』法政大学出版局、2015年発行予定)も予定されており、その共訳者としてその中の Helmut Schneiderの論考の翻訳も行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ヘーゲル美学の研究にあたり、本年度はシェリングやヘルダーリンとの影響関係や美学講義録の翻訳を重点的に行ってきた。彼の哲学、美学の成立の背景を探るにあたり、青年時代親交のあったシェリングやヘルダーリンの思想を知ることは必須のものとなる。シェリングとの関連については、ヘーゲルがシェリングの1807年の講演『造形芸術と自然との関係について』を原稿の形で彼自身から受け取っており、またその講演内容とヘーゲル美学には多くの共通点が見出されることが大きな収穫となった。また、ヘルダーリンの美の思想との関連については「ヘルダーリンとヘーゲル――「全一なるもの」をめぐって――」というテーマで検討した。ヘルダーリンは、『ヒュペーリオン』において「万有とひとつになること」を目指し、世界ないし自然と人間とが合一へと努力することを掲げたが、人間にはそうした合一の境地は到達しえないのであり、努力し続けなければならず、現世に生きる人間においては到達しえない絶対的存在とされているのが、彼における美であった。こうした「一にして全なるもの」を目指す思想は青年時代のヘーゲルにも受け継がれ、ヘーゲルはこれを生として、『キリスト教の精神とその運命』において生の思想を展開していった。こうしてヘーゲル美学の理論形成の基盤を考察したことは、今後ヘーゲルにおける美を考えるにあたり有益なものとなった。
美学講義録については、主に1820/21年度の翻訳を進めた。さらには15年3月にベルリンにて未刊行の1829年の筆記録を閲覧し、写真に収めることができたため、各年の筆記録相互の比較検討を今後進めていく上で役立つものとなった。

今後の研究の推進方策

これまで進めてきたシェリング、ヘルダーリンとの比較検討に加えて、カント、シラーからの影響について考察していく。ヘーゲルは、感性と理性、主観と客観といったあらゆる対立を統一に導くものとしての美を学として定立するために、美を客観的に論じる方法を探求したわけであるが、その態度はシラーからの影響が大きいと言える。実際にヘーゲルは美学講義においてシラーの美学を美の客観性を論じることを試みた点で高く評価しており、また両者の類似点は多く見受けられる。その一つに美における生動性を重視した点が挙げられるが、それは私がヘーゲル美学において自然美と芸術美ともに美の根本規定として掲げられていると考えるものである。こうした観点のもと、ヘーゲルとシラーの美学の検討を深めていきたい。
また各年度の美学講義を比較し、1821年~29年の中で講義内容や重要視する点がどのように変わっていったのか、またその変化がなぜ生じたのかについて検討する。さらには、自然美と芸術美の関係性にも通じる彼の自然と精神の捉え方に関して、自然哲学講義並びに精神哲学講義を参照し、考察していきたい。
こうした研究の成果を2015年12月に美学会東部会例会、またヘーゲル学会にて発表し、それをもとにした論文を両学会誌に投稿する。また、明治学院大学の寄川教授監修のもと計画が進められている共著『ヘーゲル講義録の研究』(2016年発刊予定)に「ヘーゲル美学講義の発展」をテーマに論文を執筆する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] シェリングとヘーゲル――その芸術観と芸術の地位2014

    • 著者名/発表者名
      瀧本 有香
    • 雑誌名

      哲学世界

      巻: 37 ページ: 39~51

  • [学会発表] シェリングとヘーゲルの芸術観――「自然模倣説」への批判を中心に2014

    • 著者名/発表者名
      瀧本 有香
    • 学会等名
      早大哲学会
    • 発表場所
      早稲田大学
    • 年月日
      2014-07-19
  • [図書] ヘーゲル研究――ヘーゲルの講義録2015

    • 著者名/発表者名
      オットー・ペゲラー編
    • 総ページ数
      作業中
    • 出版者
      法政大学出版局

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公開日: 2016-06-01  

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