研究課題/領域番号 |
14J04784
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
瀧本 有香 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2019-03-31
|
キーワード | ヘーゲル / 美学 / 生 |
研究実績の概要 |
今年度は、これまで進めてきたヘーゲル美学講義録の研究に加え、彼が初期に美や芸術に関してどのような考えをもっていたかを検討するためにイェナ期の文献の研究を進めた。彼が美学を講じたのは1817年のハイデルベルク大学からであるため、それ以前のイェナ期の頃は美や芸術についての見解は熟していなかったものの、後期と同様に絶対精神の展開として芸術、宗教、学が1805/06年の体系草稿の『精神哲学』において論じられていた。芸術に関してこの段階ではあまり肯定的な見方はしていないなど後期との違いはあるが、こうした点も含めて彼の芸術観の変遷を考える上でこの草稿は重要であると考えられる。 講義録研究としては、6月に日本ヘーゲル学会においてペゲラー編『ヘーゲル講義録研究』(法政大学出版局、2015年)に関するワークショップが催され、その中で翻訳を担当したHelmut Schneiderの章についての短い発表を行った。また9月にはこの『講義録研究』を受けての論文集である『ヘーゲル講義録入門』(法政大学出版局、2016年)の中で美学講義に関する論文を執筆した。こちらはヘーゲル哲学に精通していない学生向けの論文集のため、平易な形で彼の美学講義録について論じた。 また、まもなく出版される予定(法政大学出版局、叢書ウニベルシタス収録)である1820/21年冬学期の美学講義録の訳者の一人として、芸術の特殊部門の章を担当した。こちらは、20/21年の美学講義録の邦訳として初めて刊行されるものとなるため、今後のヘーゲル美学研究の発展に大いに寄与するものと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに引き続き、今年度もヘーゲル美学講義録の翻訳や各年度の講義録の比較検討について進めることができた。また、彼の美学の変遷を見る上でイェナ期の文献にあたり、哲学体系において芸術がどういった位置にあるものだったのか、後期とどのような違いがあるのかについて見ることができた。だが、こうした文献研究や翻訳を中心に進めてきたため、自然美と芸術美の研究をする上で基盤に据えているヘーゲル哲学における自然と精神の関係に関しては検討が進んでおらず、自然哲学、精神哲学の読解をしていかなければならない。また私は、ヘーゲル美学において生が鍵となる概念だと考えているが、それについてもまだ大いに検討しなければならない点がある。ヘーゲルは理念の規定をもとに美と生とを関連づける考えを持っていたが、それを軸にして美と生の関連を論じるとしても、自然物など実際に生きているものにおける美と芸術作品に現れている生における美とは論じ分けなければならない。私は以前、有機体の生と、ヘーゲルが高く評価したネーデルランド社会とそこで生まれた風景画における美とを、ヘーゲル美学における生と美の関連として同じレベルで論じたが、これらは生動性をもとにした美しさだとしても次元が違うものであり、一つのテーマとして括ることができるものではない。そうした様々な混同が現在の問題点としてあるため、それぞれのテーマをより深めていき、ヘーゲルの論をより明確に捉えることが今後の課題となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで続けてきた各年度の美学講義録をもとに研究を進めつつ、そうした文献学的研究に終始せず、ヘーゲル哲学における美学の意味、また美を考察することに重点を置いていきたい。まず、これまで検討してきた美と生の関わりに関して、理念と美、また生の関連を美学のみならず論理学も読み解きながら探っていく。また、これまで明確に区別して私が論じられていなかった有機体における生と、芸術作品の中にある生の差異を明確にし、さらに彼が最も理想の芸術美だとした古代ギリシア彫刻における身体性についても美と生の問題を論じる上で研究していかなければならない。 美学はヘーゲル自身のテキストが残されていないゆえにその講義録の重要性は高いが、しかしながらやはり彼が書いたテキストを参照していかなければならない。そのため、『精神現象学』での芸術の記述や『エンツュクロペディ』や初期の体系草稿における芸術や美の記述も考察の対象としていきたい。 また、自然の美に関して彼はネーデルラントの風景画を高く評価したわけであるが、実際にどのような絵画を見ていたのか、またそうした判断は妥当なものと言えるのか、それともヘーゲルが自分の論に合うように都合よく解釈したものであるのかを吟味する必要がある。さらには、自然美と芸術美について検討する上でその違いのもととなっているヘーゲル哲学における自然と精神の関わりについて考えていきたい。これら各々の論点を掘り下げて研究しながら博士論文執筆の準備を行っていく。
|