研究実績の概要 |
本年度は、ヘーゲルにおける芸術論が彼の哲学的思索と相応してどのように変遷していったのかに焦点を当てて研究を進めた。 イェナ期において芸術は宗教との関わりのもとで論じられ、また古代ギリシャ芸術のことを絶対芸術と称して芸術は絶対者を現すものという論にとどまっていたが、ニュルンベルク時代以降、後期にもつながる理念としての美の思想が打ち出され、芸術論は古代ギリシャに限定されたものではなくなっていった。ハイデルベルク時代において初めてなされた美学講義(1817)では、キリスト教時代の芸術も含めた美学を講じていたとされる。その背景にはキリスト教絵画の収集家であったボアスレ兄弟のコレクションにふれる機会を得ていたことも大きく関わりがあると考えられる。 ベルリン大学での美学講義(1820/21,23,26,28/29)では、古代ギリシャ以前のアジアやエジプトにおける芸術も含めて三区分に分け論じられ、芸術は精神的なものによる産物であるという理論のもと、各時代及びその土地の民族精神の現れとみなされた。また芸術終焉論が提示されたわけであるが、それとともに宗教的性格を脱した新たな芸術のあり方としての世俗的な芸術に肯定的なまなざしを向けていたことも特筆すべきことである。こうして彼の芸術論が綿密になった背景には、自らの歴史哲学の充実も関わっており、また各地の美術館への訪問を活発に行い、建設中であったベルリンの旧博物館への関心も高かった。 以上のような変遷のありようを検討し、早稲田大学文学研究科紀要に「ヘーゲルにおける芸術の過去性について」というタイトルで論文を投稿した(2019年3月刊行)。また、ミネルヴァ書房から2020年刊行予定の『ドイツ哲学・思想事典』においてヘーゲル美学講義の編纂者である「ハインリヒ・グスタフ・ホトー」と「ボアスレ兄弟」の項目執筆を担当した。
|