研究実績の概要 |
Mg2Si1-xSnx 三元系化合物において、結晶中の格子欠陥量は熱電性能を決定しうる重要な要因であるが,定量的に評価した報告はない.本年度は,高い熱電性能を有する Mg2Si1-xSnx 三元系化合物の格子欠陥量を単結晶X線を用いて評価した. まず Mg2Si1-xSnx 三元系化合物の端成分である Mg2Sn を作製し,格子欠陥量を評価した.結晶構造解析や Fourier マップの結果から,Mg2Sn には格子間サイトの Mg(Mgi) が存在しておらず,正規の Mg サイトは 3 - 6 % 程度欠損していることがわかった.Mgi はドナー型の欠陥,Mg サイトの欠損はアクセプター型の欠陥であることから,Mg2Si と比べるとMg2Sn の電子キャリアは減少し,ホールキャリアは増加していることが予想される.実際に熱電性能を測定したところ,Mg2Sn は室温で p 型伝導を示すことがわかった.以上から,Mg2Sn が p 型伝導を示す原因は,Mgi が存在しない一方で,Mg サイトが欠損しているためであると結論した.次に,Mg2Si1-xSnx 三元系化合物 (x = 0.2,0.4,0.6,0.8,0.9) の熱電性能と格子欠陥の関係性を調査した.結果として,組成 x の増加に伴い,Mg サイトの占有率および Mgi の占有率が減少する傾向が見られた.このため,Sn-rich 条件の Mg2Si1-xSnx 三元系化合物が p 型伝導を示す原因として,Mgi が減少する一方で,Mg サイト欠損量が増加しているためと結論した.熱電性能では組成 x の増加とともに,電子キャリアは減少し,ホールキャリアが増加する傾向が見られた. モジュールの作製には至らなかったが、Mg2Si1-xSnx 三元系において、n,p型熱電性能が向上する新しい指針を提案・実証した。
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