研究課題
本研究は、熱活性遅延蛍光材料に見られる三重項励起子の高効率利用に着目し、高い外部量子効率を示す有機EL素子の開発を目的として、1.分子内配位結合を用いた新規TADF材料の開発、2.固体状態における励起状態の構造制御を利用した新しいTADF型蛍光材料の開発、3.逆転一重項-三重項 (iST) 材料の開発を行ってきた。四配位ホウ素材料に関して、本年度は申請書記載の計画通り、材料の薄膜物性評価と素子特性の評価を行った。遅延蛍光を示す材料ではあるものの、有機EL素子の外部量子効率は低い値にとどまった。現在、種々の素子構造を検討しており、効率の改善が見られている。固体発光材料に関して、本年度は、昨年度合成した固体状態においても高い蛍光量子収率を示す三配位ホウ素発光材料について、その蛍光特性評価、有機EL素子評価を進めた。これらの材料は当初予定していた化合物とはやや異なる構造の化合物ではあるが、ホスト材料中において高い蛍光量子収率と小さな一重項-三重項エネルギー差を示す遅延蛍光材料であることが明らかとなった。これら材料を有機EL発光ドーパントとする素子を作製し、特に青色で外部量子効率21%を越えることを明らかにした。iST材料に関して、本年度は溶液プロセスによる薄膜の作製、有機EL素子の作製に取り組んだ。薄膜作製時に材料の凝集による蛍光量子収率の低下が見られたため、現在凝集を抑えた材料の分子設計・合成進めている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、固体発光材料に関して、三配位ホウ素骨格を用いて、高い外部量子効率を示す青色有機EL素子を作製することができた。これらの研究は機能性ホウ素化学の分野に大きなインパクトを与えるものであり、そのインパクトの大きさが評価され、上述の結果をまとめた論文がAngew. Chem. Int. Ed紙に採択された。また、四配位ホウ素材料、iST材料についてもデバイス性能を飛躍的に改善させる見通しを得つつあり、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
前年度までの研究成果を踏まえ、研究を進展させていく。四配位ホウ素材料については、その外部量子効率の低さの原因が、励起子の再結合領域が金属電極側に偏っていたために起こる金属と光のプラズモン相互作用によるものと、明らかとなりつつある。そこで、今後金属と光のプラズモン相互作用を抑制した有機EL素子を作製し、その特性評価を進めていく。固体発光材料については、単結晶構造解析を通じて、固体状態における発光効率の高さの原因を解明していく。また、ドナー、あるいはアクセプター部位の修飾により、他の発光色を示す材料の開発にも取り組んでいく。iST材料について本年度は、薄膜作製時にiST材料のスタッキングにより、蛍光消光が起こり、蛍光量子収率が低くなることを明らかにした。今後、材料設計を見直し、スタッキングを抑制したiST材料の設計・合成を行い、材料の薄膜における光物性、及び有機EL特性を評価していく。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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