研究課題/領域番号 |
14J04795
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
清水 美里 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 台湾 / 水利 / 水力発電 / 東アジア / 植民地史 / 帝国日本 |
研究実績の概要 |
旧植民地地域には、帝国主義支配下に建設されたインフラ設備が現在も利用されていることがある。しかし、その評価は旧宗主国の側だけでなく、旧植民地の側でも定まっているとは言えない。さらに、その議論も帝国が植民地を収奪/開発するという面のみが注目され、被支配民族の側の営為が着目されることはあまりなかった。本研究の目的は植民地台湾における統治者と被支配民族の多様な応答が開発にもたらした影響を論ずると共に、そのメカニズムを解明することである。「植民地的開発」を通じて、台湾人の生活の中に「近代」は着実に流入した。その受容、利用のあり方は均一ではなかったが、植民地下であるが故の特徴を帯びたと考える。これらを前提とした上で、「植民地的開発」に台湾人がどう向き合い、どのような場で何を訴え、何を諦め、何を勝ち得たのか、植民地権力とどのような応答関係が成立し得たのかを明らかにする。 本研究は学術研究だけでなく、東アジア外交、民間交流の現場での活用が期待されている。日本植民地期の開発事業は台湾側から往々にして好意的に評価されているが、日本側の交流事業に関わる人々は当時の開発の実態がよく分からず、評価の仕方に戸惑いがある。よって本研究に強く関心を持っている。 採用2年目は1年目に引き続き、日本国内および台湾で資料調査を行った。台湾調査は5月の短期調査と8月末から3月中旬までの長期調査を実施した。台湾滞在中は資料収集だけでなく、日本植民地期に建設された水利設備のフィールドワークをおこなった。また長期滞在中の9月1日からは中央研究院台湾史研究所にビジター研究員として所属し、各種学会、シンポジウムや国際学術会議に参加するとともに、定期的に開催される黄旺成日記解読班および吉岡喜三郎日記解読班にも参加した。さらに10月には単著の出版にいたった。このほか、日本(6月)、台湾(3月)で学会報告をする機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、博士論文を加筆修正し単著『帝国日本の「開発」と植民地台湾―台湾の嘉南大シュウ[土+川]と日月潭発電所』として刊行した。さらに、昨年10月に台湾で報告した内容が論文集に掲載された。第二に、日本内外で嘉南大シュウ[土+川]に関する事例研究および嘉南大シュウ[土+川]建設に携わった八田与一の言説に関する研究を報告する機会を得た。 第三に、中央研究院台湾史研究所の档案資料の有効性を確認できた。昨年度から収集している台湾歴史博物館所蔵資料、神戸大学所蔵新聞資料と合わせ、当該研究に重要な進展を与えるものである。また、植民地技術者に関する研究の資料調査にも進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、採用2年目で学会報告した内容を深め、論文掲載を目指す。特に、嘉南大シュウ[土+川]に関する事例研究については、警察や製糖会社と台湾農民の関係に焦点をあてて、植民地権力・在台日本人・台湾人の三つ巴の構図を解明していきたいと考える。 次に、植民地技術者の思想に関する研究をまとめ、嘉南大シュウ[土+川]に関する事例研究とつなげながら分析を継続していく。 また、採用1年度、採用2年度に引き続き台湾での調査を行うが、可能であれば、北米や他の東アジア地域で関連資料の調査を行う。
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