旧植民地地域には、帝国主義支配下に建設されたインフラ設備が現在も利用されていることがある。しかし、その評価は旧宗主国の側だけでなく、旧植民地の側でも定まっているとは言えない。さらに、その議論も帝国が植民地を収奪/開発するという面のみが注目され、被支配民族の側の営為が着目されることはあまりなかった。本研究の目的は植民地台湾における統治者と被支配民族の多様な応答が開発にもたらした影響を論ずると共に、そのメカニズムを解明することである。「植民地的開発」を通じて、台湾人の生活の中に「近代」は着実に流入した。その受容、利用のあり方を検討するために、電力と灌漑用水の事例を検討し、植民地下であるが故の特徴をそれぞれ導き出した。さらに灌漑用水の事例では植民地下の台湾における水利運営体のなかの「自治」的な空間を分析し、「植民地的開発」に台湾人がどう向き合い、どのような場で何を訴え、何を諦め、何を勝ち得たのか、植民地権力とどのような応答関係が成立し得たのかを明らかにした。さらに、本研究の事例は現在の日本と台湾の義務教育での教科書・教材に記載されているため、これらの教科書・教材の分析も行った。 採用3年目は1年目、2年目に引き続き、日本国内および台湾で資料調査を行った。台湾調査は5月の短期調査を実施した。台湾滞在中は資料収集だけでなく、日本植民地期に建設された水利設備のフィールドワークをおこない、現地で開催されたシンポジウムにも参加した。このほか、日本(4月・6月)、トロント(6月)で学会報告をする機会を得た。これらの成果は年度内に学術雑誌等に掲載された。
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