PAタグシステムは、蛋白質の精製や検出に有用な新規アフィニティータグシステムである。本システムは非常に強力であり、和光純薬工業株式会社より既に市販されている。しかし、PAタグシステムにも欠点が存在する。それはPAタグに対する抗体であるNZ-1が内在性のヒトポドプラニンに結合してしまう点である。そのため、本研究では、バイオインフォマティクスの技術を用いて、PAタグとNZ-1の特異性を改良し、ヒトポドプラニンだけでなく自然界に存在する他の蛋白質とも結合しないような第二世代のPAタグシステムの開発を試みた。 まずは、抗体とタグの詳細な結合モデルの解析をX線結晶構造解析によって試みた。その結果、NZ-1とPAペプチドの複合体及びNZ-1単独の結晶化に成功した。さらに、それらの結晶から得られた良好なデータセットを基に構造解析を進め、複合体とNZ-1単独の構造を決定した。最終的に、蛋白質構造データバンク(PDB)へ決定した構造を登録した。 バイオインフォマティクス技術を用いてのPAタグシステムの改良は、共同研究によって行なった。まずは、使用する計算手法が本研究で使用可能かどうか評価した。その結果、結合に水が関与しない場合は使用可能であることが示唆された。しかし、計算で得られた変異体の組み合わせを評価すると、結合の回復は確認できなかった。さらに、変異を入れたNZ-1が野生型のPAタグと結合してしまうという大きな問題が生じた。そこで、先に野生型のPAタグと結合しないようなNZ-1を計算によって算出した。しかし、変異型のNZ-1と変異型のPAタグの親和性は変異型のNZ-1と野生型のPAタグの親和性よりも低かった。すなわち、今回の計算では親和性の回復は確認できなかった。 これまでの研究により、親和性を簡便に評価可能な系を確立することはできた。今後は、新たなアプローチによる計算で、このシステムを改良していくことを試みる必要がある。
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