申請者は分子集合体の構成要素としてα-ヘリックスを有する両親媒性ペプチドを用いることで、モルフォロジーの精密制御や生体材料としての応用を目指した研究を行っている。以下に2つのテーマの研究概要について述べる。 1つ目のテーマは、相分離した分子集合体の一部をpH変化によって選択的に破壊することである。左巻きのヘリックスとpH応答部を有する右巻きのヘリックスとのステレオコンプレックス形成を利用することで、相分離膜を有する丸底フラスコ型の分子集合体の調製に成功した。また、相分離を利用することで、pH応答性分子を丸底フラスコ型のネックまたは丸底の部分に選択的に集め、形態を部分的に破壊することに成功した。 2つ目のテーマは、膜の裏と表が非対称なベシクルを調製し、癌組織のイメージング用ナノキャリアとして応用することである。ヘリックスの特徴であるダイポール相互作用とステレオコンプレックス形成に加えて、親水鎖の本数に差を付けることによって、立体障害の大きな右巻きヘリックスが外側に配向した非対称ベシクルを調製することに成功した。また、機能性分子を修飾したヘリックスは、その螺旋方向に応じてベシクルの内側または外側に選択的に配向できることが示唆された。さらにイメージング実験を行うための近赤外蛍光分子(ICG)を導入したベシクルを担癌マウスに投与したところ、ICGが内側に配向したベシクルは癌組織への集積量が多くなり、抗体の産生量が少なくなることを明らかにした。これは、ICGが修飾されたヘリックスが内側に配向するとき、ベシクル表面の親水鎖密度が高くなり、免疫系から逃れやすくなったためと考えられる。 このように本成果は、ヘリックスの特徴を活用することで、分子集合体の形態を精密かつ高次元に制御することに成功し、さらに新規の生体材料としての応用に繋げた重要な研究であり学術的に意義深いと考えられる。
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