研究課題/領域番号 |
14J04815
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
永守 伸年 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | イマヌエル・カント / 構想力 / 超越論的哲学 |
研究実績の概要 |
平成26年度、申請者は本研究の研究目標(1)にしたがい、批判期以前における構想力の概念史研究を遂行した。これまでのカント研究においては、構想力はもっぱら『純粋理性批判』の綜合の作用において解釈されるのが常だった。その結果として、カントの構想力の理論はばらばらに与えられた感覚内容をとりまとめる、認識のための役割に限定されることになった。それに対して、本研究はカントの実践哲学における構想力の役割を明らかにするために、綜合を超えた、より広い構想力の射程を提示することを目指した。そのために、さしあたっては『純粋理性批判』以前のカントの覚書や講義ノートを調査し、(a)構想力が芸術作品を創造する作用を有していること、そして(b)人間と人間との感情的な交流を可能とし、道徳的な共同体の構築を準備するだけの社交的な役割をも担っていることを裏づけた。
本研究の研究成果は、2014年11月に公刊された学術論文「綜合とは別の仕方で――カントにおける構想力と形象能力」、また2015年4月に提出された博士論文「カントの批判哲学における構想力の研究」を通じて公表された。前者においては、たんなる綜合の作用を超えた構想力の広い射程が、バウムガルテンをはじめとする啓蒙主義美学との影響関係において示された。そして後者の博士論文においては、感情の社交的な伝達において果たされる構想力の決定的な役割が、カントの批判期の全体にわたるテキスト・クリティーク、ならびに文献調査によって明らかにされた。さらに、これらの研究成果は近く公刊される予定の著作『自律と共感:カント実践哲学の再構成』において広く公表される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度、申請者は批判期以前における構想力の概念史研究を遂行することを目的としていた。そしてこの目的は、2015年11月に公刊された学術論文「綜合とは別の仕方で――カントにおける構想力と形象能力」によって達成された。具体的には、『純粋理性批判』以前のカントの構想力の理論がバウムガルテン美学をはじめとする啓蒙主義美学の影響のもと、芸術作品を創造する役割を担っていることが示された。
だが、本研究は2015年4月に提出された博士論文「カントの批判哲学における構想力の研究」において、それ以上の研究成果を得ることができた。具体的には、カントの構想力の理論が芸術作品の創造だけでなく、社交における感情伝達の役割すら担っていることを明らかにした。そして感情伝達は、伝達しあう人間同士の相互理解を促すことによって、「私的な条件から独立し、普遍的な立場から考える」というカントの道徳哲学の構想に貢献することになる。このように、本研究は構想力の概念史研究を通じて美学のみならず、実践哲学における構想力の意義を示すに至ったのである。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、本研究はカントの構想力の理論を美学のみならず、実践哲学の領域においても明らかにすることを目指し、またその目的を部分的に達成することができた。だが、少なくとも実践哲学における構想力の意義はいまだ十分には明らかではない。というのも、たしかにカントはわたしたちが構想力を働かせることによって感情的な交流を結ぶことを主張しているが、そのようのな交流がいかにして可能かを、必ずしも明瞭な仕方では語っていないからである。
そこで、今後、本研究は構想力と感情をめぐる『判断力批判』の記述に注目し、わたしたちがいかにして感情を伝えあい、道徳的な共同体をつくりあげるかを示す。そのために、さしあたっては『判断力批判』における「象徴」の作用を解明し、構想力と感情がいかなる関係に置かれているかを美学の領域から考える。また、『判断力批判』における感情の理論を、主に『純粋理性批判』の感性論との対比において明らかにする。そのために、感情をめぐる18世紀の経験的心理学の理論を検討しながら、カントの感情論の画期的な意義を示したい。
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