研究課題/領域番号 |
14J04829
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
FEDOROVA ANASTASIA 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | リアリズム / 東アジア / 映画交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、終戦直後の世界で隆盛を極めたリアリズム映画が、日本やソビエト・ロシア、中国や朝鮮といった東アジア諸国において、いかに台頭し、成熟を遂げ、やがて衰退していったかを検討するものである。ソビエト・ロシアで生まれた社会主義リアリズムは、戦前から存在する芸術潮流であったが、それが東アジアに普及し、現地の映画芸術に本格的な影響を及ぼすようになったのは、冷戦による世界の二極化が深まっていった1940年代後半~1950年代においてである。ソビエトの社会主義リアリズムが東アジア諸国の映画製作に与えた影響を考えるにあたって、研究代表者はまず、日本国内外のフィルム・アーカイヴで映像一次資料の調査を実施し、研究対象となるリアリズム映画作品の選定にあたった。戦後の東アジアにおけるリアリズム映画を検討するにあたって、研究代表者は「働く人」の表象に着目し、東京国立近代美術館フィルムセンターとロシア最大のフィルム・アーカイヴであるゴスフィルモフォンドでの特別映写を実施し、「働く人」の身体や、それを取り巻く風景の描かれ方の比較考察を行った。研究代表者はまた、東アジア諸国における映画交流ネットワークの史的研究を進めるにあたって、ロシア連邦外務省外交文書館(Archive of Russian Federation Foreign Policy)での調査を行い、東アジア諸国の間で行われていた映画交流を裏付ける一次資料の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究を通して、研究代表者は、ソビエト・ロシアと日本、双方の映画界に存在していたリアリズムに対する強い関心を体現するプロジェクトとしての、日ソ初の合作映画『大東京』(1933)に関する自らの議論を大きく発展させ、それを日本語と英語の2ヶ国語で論文にまとめ、『映画とイデオロギー(映画学叢書)』(ミネルヴァ書房、2015年)とJapanese Slavic and East European Studies (Vol.35, 2015)のなかで発表することが出来た。研究代表者はまた、モスクワ郊外のフィルム・アーカイヴで行った調査をもとに、ソビエト・ロシアで生まれた社会主義リアリズムの芸術スタイルと製作方式が、日本の映画界に導入されるにあたって、伴ってきた変化を明らかにすることが出来た。研究代表者は、これまでの研究において「社会主義リアリズム的な作品」として論じられることが多かった亀井文夫の劇映画作品『女ひとり大地を行く』(1953)に着目し、この作品が日本で上映されたときのプリントと、同作品がソビエト・ロシアで公開された際に作られたロシア版のコピーの比較考察を行った。二つの映画ヴァージョンを比べることで、研究代表者はソビエト・ロシアで公開されるにあたって、日本の映画作品が受けてきた検閲の実態を明らかにし、その過程において、ソビエト・ロシアと日本で作られてきた「社会主義リアリズム映画」の間に存在する相違を確認することができた。上記の研究成果は、英語で書かれた論文として、History and Culture of Traditional Japan 7 (2014)のなかでまとめられている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は今後、博士論文 “Japan’s Quest for Cinematic Realism from the Perspective of Cultural Dialogue between Japan and Soviet Russia,1925-1955” における自らの議論を再吟味したうえで、一冊の書籍にまとめ、英語での刊行を目指す。研究代表者は、国境を超えた映画の製作・配給・興行が一般化している現代に相応しい、トランスナショナルな映画研究を確立するため、これまでの研究のなかで既に詳しく検討してきた、相互に影響しあいながら発展してきたソビエト・ロシアと日本における「リアリズム映画」ばかりでなく、ソビエト映画と日本映画双方の影響を受けながら発展していった戦後の中国や朝鮮におけるリアリズム映画をも念頭におき、戦後映画史におけるリアリズムの動向を「東アジア」という広い地域内で捉え直すことで、複雑に絡み合う東アジア諸国の映画史を包括的に理解することを目指す。研究代表者は今後、中国や朝鮮の映画史に関するより深い知識を取得し、戦後のソビエト・ロシア、日本、中国、朝鮮で発行されていたリアリズムに関する逐次刊行物、書籍を対象に批判的言説分析を施すため、上記四カ国の資料が豊富に揃っていて、その全てが同時に閲覧可能な、イェール大学の東アジア図書館/スラブ・東欧図書館での調査・資料収集を行う予定である。
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