研究実績の概要 |
Shewanella livingstonensis Ac10 は三価鉄存在下でリン酸選択的チャンネルのホモログである PhoE を誘導発現する。PhoE はリン酸欠乏状態で誘導発現するポーリンタンパク質として知られている。クエン酸鉄 (III) 含有合成培地では、リン酸と鉄イオンから不溶性リン酸鉄が生成することにより、リン酸濃度の低下を起こし PhoE ホモログを誘導発現する可能性が考えられた。そこで、呼吸基質として クエン酸鉄 (III) またはフマル酸を含み、リン酸濃度を 0.03, 15, 150 mM のいずれかに調製した合成培地を用い、野性株と phoE 遺伝子欠損株について、生育能と三価鉄還元能について評価した。その結果、いずれのリン酸存在下でも呼吸基質がクエン酸鉄 (III) の場合、phoE 遺伝子欠損株は野生株に比べ、生育能と二価鉄生成能が顕著に低下することが分かった。一方、フマル酸を呼吸基質として含む培地では、リン酸濃度に関係なく phoE 遺伝子欠損株は野生株と同様に生育した。phoE 遺伝子欠損株 に phoE を発現するプラスミドを導入した phoE 遺伝子相補株は、同条件で野生株と同様の生育能と二価鉄生成能を示し、phoE の機能を回復した。15 mM フマル酸あるいはクエン酸鉄 (III) を含む合成培地で静置培養した本菌を用いて、PhoE のモノクローナル抗体によるウエスタンブロッティング解析を行った。その結果、クエン酸鉄 (III) 存在下で PhoE の顕著なシグナルが得られた。phoEと 16S rRNA について real-time RT-PCR 法により誘導発現解析を行った結果、phoE は転写レベルで制御されることが分かった。以上の結果から、本菌の鉄呼吸において PhoE が重要な機能を担うことが示された。
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