研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は、病理学的には神経原線維変化(Neurofibrillary tangles, NFTs)としての神経細胞内のリン酸化タウ蛋白の蓄積、および老人斑としての不溶性アミロイドβ蛋白の沈着とそれらに伴う神経細胞死を特徴とする。Braakの多数例の観察によると、NFTは内嗅領皮質および海馬より出現して大脳皮質辺縁系、新皮質へと決まったパターンをとって拡大し、その密度および分布は、疾患の進展や臨床像と相関する。更に、脳幹のNFTの詳細な観察を基に、ADの最早期病変は脳幹にあるとする説がある。 タウ蛋白は、神経軸索内に存在する微小管結合蛋白で、微小管の重合促進や安定化に関わる。タウ蛋白のC末端には18アミノ酸の繰り返し配列(R1-R4)で構成される微小管結合ドメインが存在し、選択的スプライシングにより4リピート(4R)型(R1, 2, 3, 4)、または3リピート(3R)型(R1, 3, 4)のアイソフォームをとる。難溶性凝集体の電気泳動での分析では、ADでは3R/4R混合型の異常タウ蛋白が認められる。近年、NFTを認める脳の海馬において、NFTステージ分類の初期病変から後期病変となるに従いタウは4R型から3R型へとプロファイルシフトしていくことが系統的に示された。しかし脳幹の神経核群のタウ・アイフォームのプロファイルや、NFTにおける3R/4Rの超微形態的局在はまだ明示されていない。 このため, 今年度の研究においては、脳幹や前脳基底部の各部位でタウ・アイソフォームの分布を検証するべく、神経病理学的にADと診断された、異なるBraak NFTステージの剖検例23例(ステージ1~5 : 各4例、ステージ6 : 3例)を対象とし、中脳上部および橋上部のホルマリン固定パラフィン包埋切片を用い、3R型タウ、4R型タウのアイソフォーム特異的な抗体であるRD3, 4RTau抗体を用いて二重免疫染色を行い、免疫組織学的検討を行った。さらに、リアルタイムにXYステージおよびZ軸を動かすことにより自動的にシームレスに像をつなぎ合わせる3D tiling法を用いて、上記各切片全体の撮像を行い、RD3および4RTau陽性構造を神経病理学的に評価した。目下、画像解析用ソフトウェアを用いて部位毎にRD3および4RTau陽性構造の総数をカウントして定量的検討をすすめている。また、それぞれの神経核間でRD3陽性構造とRD4陽性構造物の出現頻度に差があるか比較検討をし、脳幹でのタウ・アイソフォームのプロファイルの同定を行っており, 解析結果を, 来年度の日本神経病理学会総会にて発表すべく準備を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病の脳幹の神経原線維変化におけるタウ・アイソフォームの解析に従事した。具体的には, アルツハイマー病剖検例23例の中脳および橋においてRD3, 4RTau抗体を用いた二重免疫染色を行い, 3D tiling法により全範囲を撮像し, 神経原線維変化の定量的解析を進めている. また, RD3, 4RTau抗体およびQdot標識二次抗体による二重免疫電顕法を実現すべく, 前処置の最適化に取り組み, 現在電顕標本作製に至っている段階である. 研究へ積極的に取り組み, 研究はおおむね順調に進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
NFTを構成するタウ陽性線維において, RD3および4RTau抗体による二重免疫電顕法および超解像顕微鏡による観察を行うことはNFTにおけるタウ・アイソフォームの超微形態的局在を知るために重要である。さらに光顕と電顕の両者での観察が可能であるQdotを用いて免疫標識を行い3D-oriented immunoelectron microscopy法と標識のEDX解析(Uematsu et al. AJP 2012)を応用すれば、光顕像と電顕像の直接比較を行うことができる。本研究課題の今後の推進方策としては, RD3および4RTau抗体の前処理法および組織の包埋方法を新たに種々検討し、超微形態に与える影響の少ない包埋法および前処置法によってRD3, 4RTau抗体およびQdot標識二次抗体によるNFTの二重免疫電顕の観察を行っていく予定である。これにより、世界に先駆けてはじめてNFTにおける3Rタウと4Rタウの超微形態的局在を示すことができれば、アルツハイマー病病理の更なる理解につながると考えている。
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