研究実績の概要 |
病原体は宿主から栄養を搾取しながら増殖する。吸収する栄養素のなかでも炭素は量的にも質的にも最も重要な栄養元素であり、病原体の多くは植物から糖を主な栄養素を吸収していると考えられる。実際にトウモロコシ黒穂病菌のショ糖トランスポーター遺伝子破壊株は病原性の低下を示すことも報告されている(Plos Biol., 2010)。各々の病原体は様々な生活様式を持ち、それらに適応した多様な栄養摂取メカニズムを備えていると考えられるが、報告例は非常に乏しく、それらの分子機構の全貌をつかむには程遠い状況である。そこで本研究では活物寄生相・殺生相を持つ炭疽病菌を用いて病原性発現と糖吸収の関与を検討した。炭疽病菌のなかでもゲノムが解読されており、遺伝子操作が可能なウリ類炭疽病菌を主に用いた。 ウリ類炭疽病菌のゲノムから既知の糖トランスポーターに相同性のある配列を持つ遺伝子を抽出し、糖トランスポーター遺伝子候補とした。さらに、その中からマイクロアレイ解析の結果をもとに植物感染時に発現が上昇する遺伝子のリストを作成した。感染時に遺伝子発現量の高い糖トランスポーター遺伝子から優先的に遺伝子破壊株を作製し、病原性への影響を検討した。その結果、若干ではあるが病原性が低下する遺伝子破壊株が得られた。糖トランスポーターは多数の相同遺伝子による遺伝子ファミリーを形成しており、病原性の低下が弱かった要因として相同遺伝子による機能重複性が考えられる。本研究により、ウリ類炭疽病菌の感染戦略に糖トランスポーターを介した糖吸収が重要であることが示された。今後は多重遺伝子破壊株作成し解析を進める必要がある。
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