重度心身障害児における残存脳機能評価のため、前年度に引き続き呼名刺激応答時の脳波解析を行った。 まず詳細な呼名刺激応答を明らかにするため、健常群において自己名・他者名をそれぞれ音声提示されたときの事象関連電位および時間周波数応答について検討した。その結果、自己名刺激時特異的に、事象関連電位における後期陽性電位がみられた。またベータ波帯域の事象関連脱同期が確認された。これらの結果は、自己名に関する長期記憶想起や、自己認知機能を反映しているものと考えられる。これらの結果をまとめた論文は Brain Research 誌に受理され、掲載された。 健常群での結果をふまえ、重度心身障害児と健常群における自己名呼名刺激時の脳波応答を比較した。期間一年目ではシータ波帯域の活動のみに着目したが、該当年度ではアルファ・ベータ波帯域での比較を行った。結果、患者群と健常群で差がある時間周波数帯域・差がみられない帯域をそれぞれ見出した。これらの結果は、患者群が自己名をどの程度認識できているか、また彼らの残存脳機能を示唆するものであると考えられる。患者群と健常群の比較結果については、現在論文投稿中である。 呼名刺激は音声を用いた評価系であるため、聴覚機能が低い重度心身障害児に対しては、残存脳機能評価が不可能である。より幅広い患者を対象とするべく、聴覚以外の感覚系を用いた実験を構築することとした。新たな刺激対象として、言語よりも原始的な刺激である「嗅覚」を利用することとし、嗅覚と視覚(色彩)を組み合わせたマルチモーダル刺激による実験系構築を行った。健常群でのみ検討を行い、嗅覚刺激の有無により視覚刺激記憶想起時の脳波応答が異なるという結果を得た。この系については、今後より詳細な解析を行い、重度心身障害児に適用できる実験系構築に活用する予定である。
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