研究課題
研究実施計画に沿い、本年度は食品の熟成度モニタリングデータの取得、および複数の光計測手法を組み合わせるスペクトロミクス手法の開発を行った。主に2種類の食品、チーズおよび牛肉のモニタリングを行った。課題1:蛍光指紋・近赤外吸収スペクトルによるチーズの熟成工程モニタリングチーズは保蔵期間中に乳酸菌と凝固酵素の作用によりタンパク質や脂質の分解、遊離アミノ酸・遊離脂肪酸の増加、脂質の酸化など、様々な化学・物理変化が起こる食品である。本研究ではこの変化を蛍光指紋・近赤外吸収スペクトル・紫外可視吸収スペクトルを用いてモニタリングすることを目的とした。試料には熟成期間が7日から329日にわたる国産チェダーチーズを用いた。複数のスペクトル情報を統合し、共通する情報を抽出する正準相関分析を用いたところ、蛍光指紋のみ、もしくは近赤外吸収スペクトルのみで主成分分析を行ったときは熟成に関する情報を引き出すことができなかったのに対し、蛍光指紋と近赤外吸収を組み合わせた正準相関分析ではチーズの種類の違いおよび熟成期間の違いが明確に見られた。課題2:近赤外吸収・散乱による牛肉の計測牛肉は屠殺後に数週間の熟成工程を経ることにより、タンパク質や脂質の分解が進み、肉質や風味が向上することが知られている。一方、光の吸収と散乱はそれぞれ試料の化学的特性、物理的特性との関連性が強い現象であり、牛肉の熟成工程に対して適用することにより化学的変化と物理的変化を同時にモニタリングすることが可能になる。試料の吸光係数および散乱係数を同時に計測できる二重積分球を用いて牛肉の経時変化をモニタリングした結果、散乱係数と肉の柔らかさに相関が高いことがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実施計画では初年度には、(1)スペクトロミクス手法に用いる計測装置(分光光度計および蛍光分光光度計)を選定し、条件設定を行うこと、(2)一定時間ごとにすべての計測装置による網羅的光計測および熟成度指標計測(レファレンスとなる化学・物理計測)を行う予定であった。この計画に対し、本年度はチーズと牛肉の二種類の食品についてデータを取得することができた。チーズは蛍光指紋・近赤外吸収・紫外可視吸収スペクトルを取得し、牛肉は近赤外吸収および散乱を計測した。さらに、チーズの熟成データに関しては、2年目に行う予定であった熟成度推定モデルの構築を達成しており、投稿論文1報としてまとめた。
現在、同一試料につき複数の光学データを取得済みであり、今後はこれら複数のデータを統合し、試料の定性的・定量的性質を推定するモデルを構築する。異なる性質のデータを統合する手法の開発が鍵になるため、メタボロミクス分野等で用いられている手法も参照しながら新しい手法を開発する予定である。現在、計測を長期間に渡って継続的に行う際、計測装置側の変化(光源の劣化、定期検査によるパラメータの変化)が問題になっている。この問題に対し、標準試料を用意して定期的に計測を行うことにより、装置側の変化を補正する予定である。
すべて 2016 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (18件) 産業財産権 (1件)
Journal of the Science of Food and Agriculture
巻: 96 ページ: 1167-1174
10.1002/jsfa.7199
Food and Bioprocess Technology
巻: 8 ページ: 1349-1354
10.1007/s11947-015-1497-9
巻: - ページ: -
10.1007/s11947-014-1410-y
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 79(4) ページ: 652-657
10.1080/09168451.2014.988678
日本食品工学会誌
巻: 15(3) ページ: 157-164
10.11301/jsfe.15.157