本研究では、ミジンコを対象にCRISPR/Casを用いた遺伝子導入技術の確立と2Aペプチドを用いた共発現システムの構築を目指した。 これまでに、Cas9 mRNAの注射によるミジンコの遺伝子破壊技術は確立されていた。ところがその効率は8%と低く、そのためCRISPR/Casを用いた遺伝子導入は難しいと考えられてきた。近年、Cas9 タンパク質と gRNA の複合体を注射することで、遺伝子破壊、遺伝子導入効率を上げる手法がセンチュウなどで確立された。そこで私は、この手法をミジンコに用いることで高効率な遺伝子破壊と、遺伝子導入が可能になるのではないかと考えた。その結果、遺伝子破壊効率は40%となり、Cas9 mRNAの注射に比べて、効率は5倍上昇した。その上、約1%の効率で標的配列に非相同末端結合修復により遺伝子導入を行うことができた。Cas9 タンパク質を用いたゲノム編集は今後ミジンコにおける遺伝子機能解析の基盤になると期待される。 続いて、外来遺伝子導入後のスクリーニング手法の開発のため、2Aペプチドを用いた共発現システムの構築を目指した。昨年度までの研究でミジンコにおける2Aペプチドの機能は確認できたが、切断効率については判明していなかった。そこで今年度は、切断効率を視覚化するため、2Aペプチドの前後のタンパク質を異所的に発現させることを目指した。2Aの上流と下流で、細胞膜局在シグナルを付加した赤色蛍光タンパク質と核局在シグナルを付加した緑色蛍光タンパク質を発現するプラスミドを設計し、これを鋳型として in vitroでmRNA合成した。このmRNAを注射し、過剰発現させた。その結果、細胞膜が赤色、核が緑色に染まった。また、mCherry、GFP像を重ねても、共局在を示唆する黄色のシグナルをほとんどの細胞で検出できなかった。つまり、2Aペプチドの高効率な切断効率が示唆された。
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