研究課題/領域番号 |
14J05117
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
宮川 幸奈 九州大学, 人間環境学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 教育哲学 / 自律 / フーコー |
研究実績の概要 |
本研究は、M.フーコーの思想を踏まえて、人間が自律者として振る舞うようになる過程を明らかにすることを目的としている。初年度にあたる平成26年度は、以下の三つの作業を行った。 第一に、教育学における自律概念について分析するとともに、フーコーの主体化=従属化論を、自律をめぐる議論の中に位置付ける作業を行った。具体的には、教育学が自律について論じる際に自律のパラドクスを中心にしてきたことを、〈ふり〉論を踏まえて分析し、その議論の特徴と問題点について論じ、本研究のテーマである「自律の虚構性」の意味を明確にした。加えて、フーコーの主体化=従属化論を参照し、自律の実現を目指すパラドクス中心の議論が孕んでいる危険性についても論じた。 第二に、フーコーの諸著作における、様々な「分割する実践」を検討した。人間が自律者として振る舞うようになる過程を分析する手がかりを得るため、様々な「分割する実践」に着目してフーコーの諸著作を精読した。特に、『狂気の歴史』における狂人/正気(理性)の人の分割と、類比的に言及されている子ども/大人の分割、そして『臨床医学の誕生』における死/生の分割について、それぞれの分割のメカニズムと、分割間の共通点・相違点について整理した。 第三に、中期フーコー権力論と後期フーコー主体論の関係を検討した。本研究は、諸々の「分割する実践」について論じた中期フーコーの権力論を取り扱うが、「分割する実践」という語は、主体を中心的なテーマとするに至った後期のフーコーが、自らのそれ以前の研究を総括するために用いた語であった。そこで、後期の著作・講義録からフーコー主体論の全体的な枠組みを把握し、そこに個別の「分割する実践」を位置付けることを目指して、後期フーコーの著作・講義録を精読した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成26年度は、教育学が自律をめぐって展開してきた議論の特徴と問題点を明確にし、その議論の中にフーコーの主体化=従属化論を位置づけることができた。この点に関しては、学会のラウンドテーブルとその報告論文での発表に至り、計画以上の成果を上げることができたと考える。 フーコーの「分割する実践」の分析に関しては、成果の発表には至っていないものの、個別の「分割する実践」のはたらきや違いについて整理を進めることができた。なおかつ、フーコーの思想から近代的な自律的主体の形成過程を読み取ろうとする本研究にとって、個別の「分割する実践」について論じている箇所の分析に先立って、後期の著作・講義録からフーコー主体論の全体的な枠組みを把握し、そこに個別の「分割する実践」を位置付ける必要があるという認識に至り、その作業に取り掛かることができた。このように、研究目的達成のための計画をより適切に立て直すことができたため、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、第一に、後期フーコー主体論の中に、中期フーコーによる個別の「分割する実践」の分析を位置付ける。そのために、中後期フーコーの思想の変遷に関する研究動向を踏まえつつ、後期の著作・講義録の精読をさらに進める。 第二に、第一の作業で得られた基礎的な枠組みの下に、子ども/大人の分割と異常者/正常者の分割などが絡み合いながら、自律的主体が形成される様子を描いていく。そのために、計画の通り、「精神遅滞」概念について論じている『精神医学の権力』講義と、学校における規律・訓練の技術について論じている『監獄と誕生』を中心に検討する。 これらの作業について、学会での発表と論文の投稿を行う。
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