研究課題/領域番号 |
14J05241
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
関 智子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 現代イギリス戯曲 / 演劇学 / 登場人物 / 台詞 / ポストドラマ |
研究実績の概要 |
本研究は、20世紀末以降のヨーロッパ戯曲を取り上げ、そこに見られる登場人物概念と台詞の変容を明らかにすることを目的とする。当該年度においては、特にサラ・ケインおよびサイモン・スティーヴンスの作品に焦点を当て、90年代以降のイギリスにおける、従来とは形式の異なる戯曲群に見られる登場人物と台詞の特異性を明らかにすることを目的とした。 具体的には、現代イギリス演劇を代表する、S・スティーヴンスの『ポルノグラフィ』(2007)とS・ケインの戯曲群すなわち未出版のモノローグ集から遺作『4時48分サイコシス』(執筆1999、上演2000)までの作品を取り上げ、そのドラマトゥルギーに着目して作品分析を行った。その過程において、ロンドンのV&Aアーカイヴや大英図書館に所蔵されている初演時の資料の調査などのフィールドワークを行い、またそれらの情報を踏まえた上で、戯曲理論、登場人物概念理論、物語論、文体論、記号論などの文学理論を用いて、作品分析を行った。 以上の研究の結果、『ポルノグラフィ』における、演劇的発話に対する実験的試みの意義およびケインの作品における特殊な登場人物と言語感覚に見る彼女の演劇観を把握することができた。『ポルノグラフィ』は、匿名化された登場人物の「語り」を用いることで、観客の想像力を喚起し、自己批判的にテロのメカニズムを描いていたことがわかった。またケインの作品は時期により形式が大きく異なるが、それらに通底するのは、演劇が複数の他者によって創造される芸術であるという強い意識であり、それが作中では、登場人物と俳優および発語される台詞と発語する身体のねじれた関係として描かれていることがわかった。 以上の考察を通じて、現代イギリスにおける、従来の形式から逸脱した戯曲がしかし演劇という芸術形式を前提としており、そこを志向していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、概ね当初の研究目的に対して順調に進展している。当初の研究計画では、1年次にS・ケインを取り上げた後、現代ドイツ戯曲に着手し、H・ミュラーの作品を取り上げる予定であった。だが、当該年度の研究過程において、S・スティーヴンスの作品が本研究に不可欠であることがわかったため、先にその作品についての研究を行った。現代の作品を扱うため、新たな研究対象が現れる可能性については当初より考慮済みであり、本研究の進捗に問題はない。 また、2年次末に提出する予定の博士論文の準備も順調である。当初の予定通り、現時点では博士論文の構想が概ねできており、序論の内容となる背景および概論説明、問題提起の部分はほぼ完成、第一部へと進んでいる。 以上のことから、本研究の達成度は概ね順調だと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、原則として当初の研究計画に沿って進められるが、よりイギリス戯曲に重点をおく必要があるだろう。現代イギリス戯曲に対する理論的考察はあまり先行研究がなく、これまでの研究過程において、対象とすべき新たな作品が既にいくつか現れている。そのため、今後の研究ではまずそれらに対する分析が必要だと考えられる。 具体的には、これまで取り上げて来た劇作家に大きな影響を与えた、E・ボンドとC・チャーチルの作品を取り上げる。まずC・チャーチルの『ブルー・ケトル』を含む、特殊な台詞と言語感覚による作品を取り上げ、理論的考察を行い、またその他の作品における登場人物と俳優の関係性について論じる。その後、E・ボンドによるいくつかの実験的作品に着手し、そこに見られる台詞として特異な言表行為について考察する。いずれの場合も現地イギリスでの調査が必要となるため、ロンドンを中心にフィールドワークを行い、彼らの作品の記録を収集する。 また同時並行的に、現代ヨーロッパ戯曲の変容を招いた先駆的存在としてのH・ミュラーについての調査、および現在書かれつつある研究対象候補作品の調査を、国内およびドイツやフランスなどの国外において行う。今年度(平成27年度)中の博士論文提出を目指し、引き続き第一部を執筆し、秋までに第二部の内容の完成を目指す。
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