研究実績の概要 |
今年度は昨年度に引き続き, 署名集めを必要とする直接請求についての研究を行った. 昨年度では, 各市民は法律についての選好の分布が既知である場合について研究してきたが, 今年度はその分布が未知である場合についての拡張を行った. その結果, 実現した分布を所与とした下で署名運動が起こる確率は,その実現した分布の下での法律の評価値の上限の密度に依存することを証明した. 具体的には実現しうる分布の集合の中で, その密度の比が署名運動に参加する人数の期待値の比であることを証明した. したがって法律の評価値の上限の密度が高ければ高いほど署名運動が起こりやすい. 一般的な分布の集合では法律の評価値の上限の密度と法律の支持者の割合は無関係である. しかしながら, 切断正規分布など特定の分布関数の集合に絞ると相関関係がある. 具体的には切断正規分布においては分布の平均が増加すると, 支持者の割合も密度も増加するが, 分散が増加すると, 支持者の割合は減る一方, 密度は増加することがあることを示した. この結果はある法律に対しての署名運動の起こりやすさと支持者の市民に占める割合についての関係を明確にしたという意味で重要であると考えられる.
また昨年度は, 人々は署名運動家に一度しか出会わないと仮定していたが, 今年度はその仮定を緩め, 人々が署名運動家に何度も出会う状況を分析した. その結果, もし署名することにコストがかからないのであれば, 一度しか出会わない場合と全く同じ結果が得られた. 一方で署名することにコストがかかるのであれば人口が十分大きければ, 署名運動の結果は選好の分布と無関係に決まることを証明した. この結果は人々が署名運動かに一度しか出会わない場合と同じ結果である.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては, 今まで得られている成果における仮定をより明確にし, 一般化することである. 特に運動家に何度も出会うことのできるケースについては仮定が多いため, より現実的な仮定の下で結果を一般化する, また今までの研究成果を論文にまとめて投稿する.
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