本研究課題における実績については以下のように説明する。
1.伝播遅延が存在する制御システムが安定がどうかを判別する際には、liftingというアイディアのもとで導入されるmonodromy operatorのスペクトル半径を計算することが重要である。ここで本研究は、遅延された信号を表すためによく使われる4つの異なる関数空間を考慮し、それぞれの関数空間から決まる数学的に異なる4つのmonodromy operatorを定義した。さらに、そのmonodromy operatorのスペクトル半径が1未満であることが、伝播遅延を有する制御システムが安定であるための必要十分条件であることを数学的に証明した。この結果を通して、伝播遅延を有する制御システムの安定性が遅延された信号の特徴によらずに一つの方法で判別すつことが可能になった。
2.持続的外乱が制御システムへ及ぼす影響を厳密に解析し、また、その影響を最小化するためには、関する空間L∞上で信号を取り扱う必要がある。すなわち、持続的外乱による制御システムの性能劣化は、L∞誘導ノルムというものによって定量的に評価することが可能である。しかし、L∞誘導ノルムを取り扱うためには、Banach空間という通常のHilbert空間よりもっと複雑であるものを考慮する必要があるので、L∞誘導ノルムに関する研究成果は比較的に少ないところである。ここで本研究では、制御対象と制御機器がすべてアナログとなっている連続時間制御システム、制御対象はアナログであり制御機器はディジタルであるサンプル値制御システムに対して、L∞誘導ノルムを厳密に計算する手法を開発した。さらには、L∞誘導ノルムを最小とするディジタル制御機器の設計方法も与えた。この結果を通して、持続的な外乱に対する影響を最小とする制御機器の設計が可能となり、実在のシステムへ幅広く応用できることになた。
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