平成27年度は研究成果を学位論文にまとめた。7-8月に米国St. George島で海鳥調査を実施し、行動データを取得した。10月にPDに資格変更し、オックスフォード大学で行動データの解析に取り組んだ。 【学位論文の概要】空気と水の密度は800倍異なるため、飛行と遊泳は力学的制約の異なる運動である。それにもかかわらず、ウミスズメ類など一部の鳥類は羽ばたいて飛んで泳ぐことができる。本論文ではウミスズメ科ウトウ(Cerorhinca monocerata)を研究対象とし、空中と水中を移動するうえで重要と考えられる羽ばたき運動に着目し、その力学的側面を研究した。 ウトウに加速度とGPSロガーをウトウに装着することで、羽ばたき頻度、飛行・遊泳速度を計測し、ビデオ映像から翼の振り幅を計測した。その結果、ウトウは飛行では翼を広げ高頻度で羽ばたき、遊泳では翼を縮め低頻度で羽ばたくことがわかった。飛行と遊泳で羽ばたき運動が異なることが、推進にどのように貢献しているのかを調べるために推進効率の指標となるストローハル数という無次元数を計算した。ストローハル数(St)は、St = f A / Uと定義される。 fは羽ばたき頻度(Hz)、Aは翼の振り幅(m: 翼先端の振幅)、Uは前進速度(m s-1)をあらわす。ストローハル数が0.2-0.4の範囲に収まる時は羽ばたきの推進効率が高くなることが知られている。ウトウのストローハル数を計算すると、飛行(0.23)と遊泳(0.36)ともに推進効率が高くなる範囲で羽ばたいていることがわかった。このことから、ウトウ以外のウミスズメ類も飛行と遊泳で推進効率が高くなるストローハル数で羽ばたいていることが示唆される。また、飛行と遊泳で羽ばたき頻度や翼の形状を変える行動は、飛行に特化した鳥類が水中に適応する移行段階で、飛行と遊泳を両立するための行動の1つと考えられた。
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