研究実績の概要 |
アデノウイルスベクター(AdV)からはウイルス随伴RNA (Virus-associated RNAs; VA RNA)が常に発現しており、microRNAやshort-hairpin RNA (shRNA) の成熟過程を競合拮抗する可能性が報告された。申請者はこれまでに世界的に作製が非常に困難であったVA欠失AdVを高力価で作製することに成功し、報告しており(Maekawa et al., Sci. Rep., 2013)、このVA欠失AdVを用いて平成26年度では以下についての結果を得た。
1、shRNA発現VA欠失AdVを用いたVA欠失効果の検討。 AdVから発現するVA RNAによりshRNA活性が阻害されることがC型肝炎ウイルス (HCV) に対するshRNAを用いた検討 (Pei, Maekawa et al., Sci. Rep., 2013) により明らかとなったため、B型肝炎ウイルス (HBV) に対するshRNA発現VA欠失/保持AdVを複数作製し、有用性の高いshRNAの同定に成功した。 2、VA欠失AdVによる高効率なiPS細胞からの分化誘導。 AdV上の目的遺伝子挿入領域について至適化した研究に携わり、AdVにおいては目的遺伝子の挿入領域及び挿入方向によって発現効率が異なるposition effectが確認され、最も高い目的遺伝子発現効率を示す挿入領域が明らかとなった(Suzuki, Maekawa et al., Gene Ther., 2015)。この成果に基づいて、神経分化誘導遺伝子 (Brn2, Ascl1, Myt1l)等を効率よく発現するVA欠失AdVを作製した。 3、VA欠失AdVを用いたCRISPR/Cas9システムの効率化。 マーカー遺伝子およびゲノムDNAに対する複数のCas9/gRNA発現AdV及びVA欠失AdVを作製した。
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今後の研究の推進方策 |
VA RNAの新規機能解析に関しては、VA保持/欠失AdVによるマイクロアレイ解析が既に着手され、VA RNAにより発現が変動した既報とは異なる複数の遺伝子が同定されたため(Kondo et al., PLos One, 2014)、これらのデータを基にVA RNAの細胞側標的遺伝子の解析も可能になると考えられる。 またsmall RNAを応用した遺伝子機能解析は、シグナル伝達、細胞分化、iPS研究等、さまざまな研究分野で広範囲に用いられており、shRNAやmiRNA発現AdVを用いた論文は既に多く報告されているが、これらの研究においても、VA欠失AdVを応用することにより今後更にshRNA活性が上昇するのではないかと考えられる。
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