アディポカインであるケメリンは免疫系や糖代謝・脂質代謝を調節するという特徴を持つ。当研究室ではウシケメリンの一塩基多型が枝肉の脂肪交雑や脂肪酸組成に影響することを報告しているが、ウシにおけるケメリンシグナリングの調節機構や生理的作用は未解明である。本研究では、乳牛や肉牛の生産への応用を念頭に、以下1~3のテーマを設定し、ウシにおけるケメリンを中心とした代謝調節機構の解明を目指した。 1、ケメリン遺伝子発現の調節機構の解明:黒毛和種牛においてケメリンは脂肪組織に加え肝臓においても高発現していた。特に、肝臓のケメリン蛋白質は動物の離乳後に減少していた。一方で、育成期のウシでは、粗飼料と比較して濃厚飼料を給餌した際にケメリン発現量は上昇していた。また、周産期の乳牛において肝臓におけるケメリンの発現は分娩直後に低下していた。 2、ウシ血中ケメリン濃度変化の検討:タンパク質発現の変化にもかかわらず、離乳期におけるケメリンの血中濃度には変化が見られなかった。一方で、乳牛ではケメリンの血液濃度変化は肝臓における遺伝子発現変化と類似した傾向を示した。 3、ウシにおけるケメリンの生理的作用の解明:上述のようにケメリン発現は離乳により変化したが、この時肝臓のプロピオン酸を基質とする糖新生系酵素の発現にも大きな変動が見られた。以前の報告から、ケメリンは糖新生を阻害する作用が示唆されるが、本研究によりケメリンは離乳に伴う反芻動物の糖新生系の発達に重要な役割を持つことが示唆された。また、ケメリンは乳牛の乳房内における発現・分泌が確認され、乳腺上皮細胞の牛乳合成の促進作用や免疫細胞の誘引作用を持つことが示唆された。 以上の結果から、ウシにおいてケメリンは離乳やエネルギー摂取、妊娠・出産によりその発現量や分泌量が制御され、肝臓の糖代謝や乳腺の機能を制御することが示唆された。
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