本年度は、1890年代から日露戦争前までの岡山市の政治状況を検討した論文を発表した。この論文では、日清戦後の資本主義化の進展などを背景に、民力休養論を軸に政治刷新を唱える新興勢力が岡山市内で政治的影響力を広げる過程を分析し、世紀転換期頃から地方都市が非政友会系勢力の拠点となっていく状況を明らかにした。その上で、反政友会という形で民力休養論と政治刷新論とが結びつく論理は、日露戦後の都市部における「国民主義的対外硬派」が唱えた政界刷新論につながっていくことを展望した。 こうした展望を有した結果、本研究課題の達成のためには、「国民主義的対外硬派」の典型的政治家であり、日露戦後の岡山県政において犬養毅と並ぶ影響力を持った坂本金弥の政治動向を明らかにする必要があることが明確となり、そのための史料収集および分析作業を進めた。具体的には、坂本金弥が経営した『中国民報』の論説記事の分析を進めるとともに、坂本の政策論や政治的動きが判明する雑誌や新聞を、国立国会図書館や東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法政史料センターなどで探索し、適宜複写を行った。 犬養毅の政治動向に関しても、岡山県立記録資料館、倉敷市総務課歴史資料整備室、犬養木堂記念館、国立国会図書館、早稲田大学中央図書館などで、日露戦争~第一次大戦期における犬養の論説が掲載された雑誌・新聞や、犬養とつながりのある政治家の関係文書を閲覧・収集し、分析を進めた。 またもう一つの研究フィールドとしている兵庫県伊丹地域の有力酒造家である小西新右衛門家に関しても、同家が有した政治的経済的ネットワークを解明するための作業を進めた。昨年度同様、大阪大学・神戸大学が合同で行っている、小西酒造株式会社所蔵の新出史料群である「小西家萬歳蔵資料」の整理・調査作業に定期的に参加した。そこで得られた成果の一端は論文として発表した。
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