本研究では、ネコの内在性レトロウイルス(ERV)であるRD-114ウイルスをモデルにERVの内在化メカニズムを明らかにすべく実験を行った。本年度は、昨年度の研究成果を参考に2つのRD-114ウイルス関連配列のノックアウトを行った。ネコの腎臓由来株化細胞であるCRFK細胞を対象とし、新しいゲノム編集技術であるTALENを利用した。その結果、RD-114ウイルスノックアウトCRFK細胞からのRD-114ウイルス感染性粒子の放出は検出限界以下レベルに抑制された。CRFK細胞は多くのウイルス分離やワクチン製造用に使用されている株化細胞である。RD-114ウイルスノックアウトCRFK細胞に猫汎白血球減少症ウイルス(FPLV)、ネコカリシウイルス(FCV)、ネコウイルス性鼻気管炎ウイルス(FVRV)をそれぞれ接種し、細胞培養上清中のウイルス力価を測定したところ、未処理CRFK細胞を使用したときとほぼ同等レベルであった。RD-114ウイルスノックアウトCRFK細胞でふやしたFPLV、FCV、FVRV液中のRD-114ウイルスRNAのコピー数をReal-time RT-PCRにより測定したが、RD-114ウイルスRNAのコピー数は検出限界レベル以下であった。これらの結果によりRD-114ウイルスは複数の関連配列として宿主ゲノム内に保持されているものが細胞内組換え反応によりウイルス粒子として産生されたものであると結論づけた。RD-114ウイルス関連配列が宿主の生理機能に与える影響については途中段階ではあるが、周辺遺伝子の発現レベルを変化させた可能性や宿主であるネコ胎子の一部組織での発現を確認した。 本年度の成果により、ERVと宿主の関係性について新たな知見が得られ、これらの結果により今後、ERVの内在化メカニズムについての研究が発展することが期待される。
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