研究課題/領域番号 |
14J05612
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 健 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 自然酸化架橋 / 刺激応答 / 生体適合性ゲル / ダイラタンシー現象 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「触る」、「たたく」、「押し付ける」といった力学的な外部刺激に応答してその硬さを変えることが出来るハイドロゲルデバイスの開発である。このハイドロゲルデバイスは広く医療用材料やその他工業製品にも応用が可能であると考えている。その中で着目した材料は非常に高い生体親和性を有するヒアルロン酸である。今年度の研究は主にヒアルロン酸に対してドーパミンを導入することによって空気中に存在する酸素と反応し、ゲル化する高分子材料の開発に従事した。このドーパミン導入ヒアルロン酸は初期段階では水溶液であり、注射器からの射出が容易にできることが明らかとなった。この水溶液とダイラタント流体を組み合わせることによって、注射器からの射出が可能なダイラタント流体ゲルを作製することが出来ると考えられる。一般的に椎間板や半月板を手術する場合には患者の体を切開し、その中で損傷部の切除および代替物の移植をすることが必要になると考えられるが、この方法を用いれば、患者に対しての侵襲性は注射針を刺すということに限定できる。 研究の目的として「人工椎間板の開発」を目指し、椎間板ヘルニアの根治を目指している。例えばこの技術を近年椎間板ヘルニア治療に対して注目を集めているレーザー治療と組み合わせることを考えている。この二つの技術を組み合わせることで、ヘルニア部位をレーザーによって切除した上で、切除部位の空隙に注射器やカテーテルによって導入し、自然酸化によってゲル化させるということが出来る。この溶液のゲル化は化学物質や紫外線照射などの人体に対して有害な因子を必要としないため、非常に穏やかな条件でゲルを導入、架橋することも可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【順調と判断した理由】 実験の主軸である「生体適合性ゲルの構築」および「ダイラタント流体の駆動評価」の2軸のうち、「生体適合性ゲルの構築」に成功した点が大きな理由となった。生体適合性ゲルに必要な高分子の合成は完了した。今年度はダイラタンシー現象を動的粘弾性測定装置をもとに評価していく段階となった。加えて、今まで考えていない方法でのハイドロゲルの構築をすることも可能となった。それは可視光照射による非常に穏やかな条件であった。今まで現状で2時間程度を要していた自然酸化によるハイドロゲルの架橋が、わずか10分程度の可視光照射によって完了してしまうことが明らかとなった。すなわち、ダイラタンシー現象が起こる条件を維持したまま、流体を構成する微粒子の配置や濃度を変えることなく、ダイラタンシー現象が起こるそのままの状態をゲル化させることが出来るということを示唆している。そのため、今まで苦労してきたハイドロゲルの架橋段階における微粒子の局在や沈降を防ぎながら、ゲルを固めることが可能となったため、今後の研究を飛躍的に進めることが出来ると考えられる。 【進度が遅くなっていると判断した理由】 ゲルの硬さをさらに高める必要がある。上述したポリマーを用いてハイドロゲルを作ると力学的に弱いゲルになると考えられるため、分子量やドーパミンの導入率を変化させることでゲルの強度を上げる工夫が必要である。ダイラタンシー現象が発生する最適条件の検討がまだ終わっていないという点で進度の遅れがあると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
【概要】 今年度完成したヒアルロン酸ベースのハイドロゲルと、例えば片栗粉やシリカ微粒子などに代表される粒子を組み合わせることでダイラタンシー現象を起こす溶液を作製する。この際にヒアルロン酸溶液に対して加える粒子の分率を変化させ、適切にダイラタンシー現象が起こる条件を選定する。選定には動的粘弾性測定装置を用い、印加するせん断力を急激に変化させた際の貯蔵男性率の上昇を観察する。流体を構築する溶液と粉体の混合比を決定したのち、超音波を当て、粉体をよく撹拌しながら可視光線を当てることによってゲルを作製する。作製したゲルの力学的強度を圧縮試験、引張試験および動的粘弾性測定によって測定し、必要とされる力学強度を満たす条件を、高分子濃度、分子量を変えて検証していく予定である。 【今後の方針】 ドーパミンヒアルロン酸水溶液を作製したのち、これらをシリカ粒子、コーンスターチ、片栗粉のいずれかと混合する。この際に混合比を体積比にして(水溶液:粉体=40:60から60:40)で任意に混合する。混合比を変えることによってダイラタント流体の挙動変化を確認し、混合比の最適化を行う。ドーパミン導入ヒアルロン酸水溶液/粉体で構成されたダイラタント流体を良く分散させながら酸化によって固める。以上によりダイラタントゲルを作製する。 【今までとの相違点】 現状ではPVAをグルタルアルデヒドで架橋することでゲルを作製していたが、架橋に毒性のあるものを使必要があった。そのため、最終的な目的となる生体に対しての応用が困難である子tおが予想された。しかしながら今回合成したヒアルロン酸誘導体を用いることで、その問題点を解決することが出来る。今後の応用のみならず、ゲルの作製プロセスを簡便にすることも可能である。
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