研究課題/領域番号 |
14J05667
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
門輪 祐介 一橋大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 国家 / 主権 / 連邦 / 憲法学 / 法学的国家論 |
研究実績の概要 |
憲法学における国家論の停滞とは裏腹に、発展著しい国際社会、とりわけEUの法秩序において、国家は国際レベル・地方レベルの法秩序の板挟みにあい、特権性を喪失している。憲法学からこの国家の動揺現象に対応することを最終目的として、本研究は①政治体結合の理論の探求と、②結合の基礎単位となる国家の理論の探求の2つを、課題として設定した。 課題①について、政治体結合の理論を念頭に、旧来の日本の国家論を再検討する作業を通じて、戦後の日本憲法学において、主権論・国家論を純化するために、連邦をはじめとする政治体結合の理論が削ぎ落された可能性があることを示した。この点、本研究は、戦後憲法学の国家論全体の再検討を迫る非常に広い射程を持ちうるものである。 課題②について、EU法学への参照から、「法律」の概念を分析するとき、実態と概念の深刻な乖離が生じることが判明した。法規範の正当性を多極的に確保するEU法の実態は、一元的な正当性を表す「一般意思の表現」というフランス発祥の伝統的な「法律」概念とは乖離している。したがって、構成単位としての国家の理論の探求として、この「法律」概念を定立したフランスの憲法学者カレ・ド・マルベールの議論を丹念に再検討し、「法律」の概念が現代において変容を迫られるのか、それとも存続可能なのかを明らかにする必要があることが判明した。 カレ・ド・マルベールの再解釈を試みる中で、本研究が現在までに明らかにしたのは、日本の憲法学において、カレ・ド・マルベールの研究が必ずしも一貫したものと見られていないこと、解釈者が一貫性を肯定するか否定するかによって、「法律」概念の位置づけも変動しうることの二点である。だが、古典的な「法律」概念が国家・政治体結合の理論の中で十全に機能しうるものかは、なお検討の余地を残しているため、この点について研究を継続する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「国家概念の動揺」というきわめて現代的な問題関心を持ちつつも、古典の再読を通じて、動態的法秩序の先端研究においてないがしろにされがちである、理論的・原理的考察を充実させる点に、その主眼がある。理論的・原理的考察であるがゆえに、社会への利益還元の難しさを内包するものながら、本研究は、平成26年度の2本の論文と学会・研究会報告によって、憲法学会への問題提起としての確固たる形式を具備することができた。 とりわけ、政治体結合の理論(【研究実績の概要】における課題①)は、著名な憲法学説の再検討を通じて、学界に対して理論的・原理的考察を至極理解しやすい形で提示することができた。また、国家の理論の研究において今後の主題とするカレ・ド・マルベールは、法学における常識ともいえる「法律」概念の再検討を主眼とするものであり、法学会に広く享有された前提を出発点とするために、原理的でありながら間口を広くすることができた。 このように、本研究は手法における抽象性という困難を、対象における一般性によって補い、社会への利益還元に必須となるであろう、幅広い射程の広さと奥深さを獲得している。原理的考察の担い手でありつつ、その意義を提示する形式も整いつつある点において、本研究はほぼ順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には、現行の課題として掲げているカレ・ド・マルベールの再読(【研究実績の概要】における課題②)を継続する。とりわけ、現代のフランス憲法学におけるカレ・ド・マルベールの丹念な読解者として、エリック・モラン(Eric Maulin, ストラスブール大学教授、公法学)のカレ・ド・マルベール論を取り上げ、モランの「法律」概念の形成を含めたカレ・ド・マルベール学説の一貫性に対する評価を検討する。また、現代の日本憲法学において精力的にカレ・ド・マルベールの再読を行う先行研究としては、従来の憲法学が軽視していたカレ・ド・マルベールの法人論を軸に再評価を試みる時本義昭(龍谷大学教授、憲法学)の議論を参照する。 この二人の論者はいずれも古典学説としてのカレ・ド・マルベールの再読・再評価を行うものであり、本研究におけるカレ・ド・マルベール読解の成果を、これらと問題意識を共有する研究としてまとめ、所属機関の紀要への投稿論文として結実させる予定である。
|